プレゼン資料やレポートで説得力のある文章を書くためには、「私はこう思う」「こう感じる」という主観を述べるだけではなく、「私がこう思った、こう感じた根拠は何か」を提示することが大切です。

その根拠として役立つのが公的な統計データです。今回は私がセミナーで皆さんにご紹介して喜ばれたデータや、その役立て方についてご紹介します。

カレーライスを自宅で作るのと外食するのはどちらが経済的か?

大人からお子さんまでファンが多いカレーライスですが、自宅で作るのと外食するのでは、家庭ごとの経済的負担にどのくらい差が出るでしょうか?

自宅でカレーライスを作る場合の材料費をまずは調べましょう。食料品や日用品の物価を調べるときは、総務省統計局の「小売物価統計調査」が役立ちます。

平成30年4月の物価を見ると、うるち米(コシヒカリ以外、5キロ)が2240円。米1合は150gなので、ご家族4人での食事用として3合分で450g、201.6円を使用することとします。

レトルトカレーは1箱200gが114円。4皿分は456円になります。お米の代金を合わせると657.6円です。

野菜や肉を使って作る場合の材料費はどうでしょうか? カレールウは12皿分で221円。4皿分になおすと73.7円です。その他の材料も4皿あたりの分量に換算します。

  • 豚バラ肉(100gあたり224円)……200gで448円
  • 玉ねぎ(1kgあたり250円)……200gで50円
  • にんじん(1kgあたり491円)……100gで49.1円
  • じゃがいも(1kgあたり335円)……150gでは50.3円

カレールウと肉・野菜を合計すると677.1円、お米の費用と合わせると872.7円となります。また、ご家庭では材料費の他に水道光熱費がかかることになります。

これに対し、外食のカレーライスは1皿が758円。ご家族4人で4皿を注文すると3032円です。お店で食事をとると、カレーライスを作るのにかかる材料費や水道光熱費に加えて、お店で働く人の人件費や店舗のランニングコスト、お店の利益なども客側が負担することになるので、自宅で作る場合に比べてお財布への負担感は重くなるのです。

なお、小売物価統計調査のページには「結果の引用・利用上の注意」が示されていますので、データの使用時にはご確認ください。

6月には結婚式の件数が増えるのか?

「ジューンブライド」の言葉が知られていますが、6月に結婚式をするためには、年度の変わり目である3月から4月ごろに参加者の出欠確認を行わなければならず、実務的には大変です。本当に6月には結婚式の件数が増えるのでしょうか?

経済産業省の「特定サービス産業動態調査」によると、平成29年の「結婚式場業」の売上高、取扱件数は次のようになっています。

※筆者による計算

取扱件数が最も多いのは11月の10,181件で、10月、9月、3月、4月、5月、など6月よりも多い月が多数あることが分かります。

ただ、4月と5月は取扱件数が多いのに、売上高の伸びがそう大きくない感じがしませんか? そこで各月の結婚式1件あたりの売上高を計算してみました。すると270万円台の低い数値を示すのは4月、5月、6月そして8月であり、それ以外の月は280万円台以上、11月は290万円台の数値となります。

つまり、結婚式の件数は多いものの、取扱件数が1年で最も少ない8月と同じような水準まで値下げすることで、取扱件数をキープできている状態なのかもしれません。

このように、統計データをそのまま利用するだけでなく、自分なりの考察を加え、具体的な計算を行うことで、新しい見方を発見できることもあります。

病院での待ち時間はそんなに長いのか?

春から夏にかけて、環境や気候の変化もあり体調を崩して医療機関にかかる人も少なくないと思います。「3時間待ちの3分診療」という言葉がありますが、病院の待ち時間というのはそんなに長いのでしょうか?

ここでは、厚生労働省が行う「平成26年 受療行動調査」のデータを参照しましょう。外来患者の待ち時間は「15 分未満」が 25.0% と最も多く、次いで「15 分~30 分未満」が 24.1%「30 分~1時間未満」が 20.4%未満であり、待ち時間は1時間未満で済む割合が多くなっています。

診察時間については、「3分未満」だった人は16.3%、「3分~10分未満」が51.8%となっています。

ところで、診察時間の年次推移を見ると、診察時間が「3分未満」と答えた人は平成8年の17.8%が最も多く、平成20年の13.5%がもっとも少なくなっています。なぜでしょうか?

平成20年は診療報酬改定で「外来管理加算」に関する改定が話題となった年です。「医師が患者の療養上の疑問に答え、概ね5分を超えて疾病・病状や療養上 の注意等に係る説明を懇切丁寧に行う場合」に限って加算できるようになったため(5分ルール)、3分未満の診察が減ったと考えられます。

その後、「5分ルール」が平成22年に見直されたことを受けて、3分未満の診察が再び増え始めた様子が受療行動調査のデータから見て取れます。

このように、あるデータの推移について「なぜ、こうなったのか?」を考察することも大切です。その当時に何が起こったかという情報や、他のデータとの関連性に注目して、疑問を解消しましょう。

終わりに

公的な統計データは、私たちが「こう思う」「こう感じる」という主張の根拠として役立つ場合もあります。逆に、統計データを調べることで、自分の思い込みや決めつけに気づくこともできます。説得力のある文章を書き、ご自身の思いを自信をもって主張することができるよう、各種の統計データを活用してはいかがでしょうか。

河野 陽炎