液晶や有機ELディスプレーの新材料として、量子ドット材料の需要増が見込まれている。量子ドット材料とは、簡単に言うと、半導体の性質を持った金属の微小な粒。もっと言うと、直径が数ナノメートルのカドミウム系やインジウム系の金属球である。
これに光を当てると、粒径によって特定の光を発するため、ディスプレーの色味を向上したり、より明るく見せたりすることができる。4Kテレビの普及や、国際規格BT.2020を満たす色表現の実現に向けて、ディスプレー各社が採用拡大を進めているのだ。
ディスプレー、照明、太陽電池、医療など用途は多彩
量子ドット材料は、前述のとおり直径が10ナノメートル以下の半導体微粒子であり、光を長時間当ててもほとんど退色しないため、ディスプレーの色表現力を長期間にわたって広げることができる。ただし、酸素に弱い。酸素にさらされると材料の表面が酸化され、所望の性能(色や明るさ)が出なくなる。そのため、安定して性能を発現させる使い方にも工夫が求められる。
用途はディスプレーに限らない。色味を改善することができるため、LED照明やLEDディスプレーなどに使う研究も進んでいるほか、太陽光パネルに使えば、太陽電池が良く吸収する波長に光を変換して発電効率を上げることができるといわれている。医療やライフサイエンス分野でバイオマーカーなどに応用する取り組みもある。
参入各社が続々と量産体制を整備
最初に量子ドット材料をディスプレー製品に供給したのが、米QDビジョンだ。液晶テレビに量子ドット材料「Color IQ」が採用され、液晶テレビの色再現性を高めることに成功した。このColor IQは細長いガラスチューブに量子ドット材料を封入したもので、液晶テレビのバックライトユニットと導光板の間に配置して使われた。ちなみに、先駆者であったQDビジョンは2016年に韓国のサムスン電子に買収された。
ここにきて量子ドット材料の需要増が見込まれるようになったのは、QDビジョンに続く参入メーカーが量産体制を整えてきたためだ。
QDビジョンに次いで、シリコンバレーで年産25tの量産能力を整えた米ナノシスに続き、英ナノコテクノロジーは英ランコーン工場の生産能力を当初の10倍に拡大し、さらなる増産に向けて先ごろ1万平方フィートの拡張スペースを確保した。ナノコは米ダウ・ケミカルおよび独メルクとライセンス契約を結び、ダウがすでに韓国で量産しているほか、メルクとはメルクが自社の判断で量産可能な契約も交わしている。
また、米クアンタムマテリアルズは、中国の合弁会社を通じて北京市に量子ドット材料の生産ラインとアプリケーション開発センターを建設中。本件に関して中国のファンドから1.5億元(約2180万ドル)の資金支援を受けており、中国への立地で現地の主要ディスプレー部品メーカーへの供給拡大を狙っている。
日本では、産総研の技術移転ベンチャーであるNSマテリアルズが福岡県広川町に量産工場を稼働させており、ディスプレー分野に特化した事業展開を進めている。同社には液晶用ガラス基板大手の日本電気硝子が出資している。
欧州がカドミウム使用を禁止へ
量子ドット材料がディスプレーの新素材として広く採用されていくためには、カドミウムフリーの実現が不可欠だ。先述のとおり、量子ドット材料にはカドミウム系の金属粒子が使われることが多いが、欧州委員会はRoHS(特定有害物質使用制限)指令の一環として、欧州で販売するテレビやディスプレーにおいて2019年10月からカドミウムの使用を禁止すると発表している。
現在は含有量が100ppm以下であれば適用が除外されており、「代替材料がない」といった理由で欧州委員会が20年以降も禁止を先延ばしする可能性が残ってはいるが、早晩カドミウムは使えなくなるだろう。また、「日本の企業は、カドミウムが規制以下の含有量であっても、ディスプレーへの採用を敬遠する」(量子ドット材料メーカー関係者)というように、カドミウムに対する抵抗感が強いこともある。
こうした流れに対応するため、ナノコはカドミウムフリーを実現した材料の供給拡大に全力を挙げており、欧州委員会の禁止の表明にいち早く賛同の声を上げた。クアンタムマテリアルズもカドミウムフリー材料の開発に成功するなど、技術開発面でも参入各社の足並みが揃いつつある。カドミウムフリーを参入する全企業が満たせば、量子ドット材料はこれから大きな市場に育ちそうだ。
(津村明宏)
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏