本記事の3つのポイント

  •  4Kパネル/テレビの普及が期待されている。アジア地域を中心に拡大するほか、東京オリンピック・パラリンピック、消費増税、11年の地デジ移行からの買い換え需要によって日本でも一段の需要拡大が期待される。
  •  ただ、その買い換え規模は限定的で、かつ若年層のテレビ離れもあり懸念材料があるのも事実
  •  期待される8Kテレビは5Gの普及がカギを握りそう。5Gによって8K映像コンテンツのリアルタイム無線伝送が可能になる。

 

 電子情報技術産業協会(JEITA)は、2022年までの「AV&IT機器世界需要動向」を公開した。今回はそのなかから、薄型テレビに焦点を当て、今後の市場動向を探ってみる。調査協力は㈱富士キメラ総研が担当した。

 世界をリードする2大電子デバイスといえば、半導体とフラットパネルディスプレー(FPD)。前者はIoTの普及に伴うデータセンター、あるいは自動運転に向かう車載用途などを主軸に市場を拡大中。半導体メーカーのみならず、製造装置・材料業界も巻き込み、マーケット規模は右肩上がりを続けている。

 一方、後者は中小型FPDがスマートフォン(スマホ)用途で一時期脚光を浴びたが、そのスマホもここ最近は成長鈍化で頭打ち。業界再活性化のためには、どうしても次なるアプリの立ち上がりを喚起しなければならない。その筆頭にくるのが薄型テレビである。

 薄型テレビは現状、先進諸国への普及はほぼ完了。さらなる市場拡大を狙うには、経済成長を推進しながらも世帯保有台数がまだ低い、新興諸国の市場攻略がカギとなる。さらにもう1つ、4K/8Kと称される高画質テレビの市場投入で、先進諸国も含む新たな買い替え需要も起きる可能性がある。4K/8Kの付加価値は、横ばいの市場推移を打破し、業界再活性化を促進する救世主となるのだろうか。

やはりキーワードはIoT

 AV&IT機器全体の今後を見たとき、大化けしそうな可能性を持つセット機器は残念ながら無い。それでも、市場規模が5000万台以上で、22年まで成長を継続するポジションにあるのが薄型テレビ全体、ノート型PC、4K対応テレビ、放送と通信連携対応テレビの4種である。

 一方、現状は5000万台以下だが、今後が期待できそうなポジションに位置するのがカーナビ、ディスプレー付きカーオーディオ、ホームシアター音響システム、4K対応BDプレーヤー、そして8K対応テレビの5種である。

 期待の5機種に共通するのが、通信機能、ネットワーク機能、機器間連携機能を取り込んでいることだ。IoT搭載のスマートAV機器に、需要拡大のチャンスが到来することになる。薄型テレビも高画質化だけでなく、IoT対応機器としての環境整備が必要になろう。

先陣を切る4Kへの期待

 4Kの世界市場拡大を牽引するのは、やはり中国を主軸に、アジアパシフィックや中南米、東欧・中東・アフリカを巻き込む新興諸国域。当初は50インチ以上で標準装備の4Kであったが、40インチ以上、さらには一部30インチ後半サイズでも4K対応となり、幅広い顧客ニーズに応える体制が整いつつある。

 この新興諸国に続き、旺盛な需要が期待されているのが日本である。今年末にBS放送などで4K実用放送が開始。これと呼応し、4K対応のCATVセットトップボックスが市場投入されることで、4K視聴環境が大きく前進することになる。そのうえで、さらに3つの要因がプラス効果として働く。

 1つは地上デジタル放送移行時特需からの買い替え時期と合致すること。通常、液晶薄型テレビの寿命は7~10年前後。前回の地デジ特需が11年だったため、18~22年にかけて、とりわけ19~20年に故障などを起因に買い替え需要が集中しそうな気配だ。

 もう1つの要因が、20年開催の東京オリンピック・パラリンピック。どうせ買い替えるのであれば、世界の祭典を臨場感を持って視聴したいもの。これが訴求点となって、7月開催の直前まで、需要増が見込めそうである。

 そして3つ目が消費増税。19年10月に実施される予定で、東京オリンピック開催より1年前倒しで買い替えに走る顧客層が想定できる。

 この3つの要因が重なるのが今年から20年の3年間。薄型テレビの需要増に向かって、強い追い風が吹きそうである。

期待の裏に潜む課題

 ただし、手放しで喜べない面も持ち合わせている。

 その1つが買い替え台数の規模である。前回11年に起きた地デジ特需は、アナログ放送からデジタル放送への切り替えに伴い起きたもの。ブラウン管テレビから薄型テレビへの買い替えであった。出荷台数は総計5900万台。

 これに対し、今回期待の特需は薄型テレビから薄型テレビへの買い替え。総出荷台数は前回の半分強、3300万台にとどまる見通しである。

 その背景にあるのが若者層のテレビ離れ。また、スマホやタブレット端末の所有率拡大により、ディスプレーが多様化していることも大きな要因となっている。

 それだけではない。液晶ディスプレーの製造プロセスが枯れ、高歩留まりで信頼性の高い製品が市場に送り出されている。これを裏返せば、製品寿命が今後、飛躍的に伸びることが想定される。東京オリンピック終了後の21年あたりから、特需の反動で市場は落ち込む可能性が高い。次回の特需を期待したとき、それは今回以上の歳月を待つことになる。

8Kが迎える正念場

 8K対応薄型テレビは、放送網が先行する日本、最新機能搭載機種を好む中国、この両国が先陣を切る。ただし、コンテンツは限定的であり、当面は4Kコンテンツのアップコンバート版が中心であろう。購買層は一部の富裕層のみと想定する。

 8Kの真価が問われるのは、やはり第5世代移動通信システム(5G)が整備されてから。8K映像コンテンツのリアルタイム無線伝送が可能になる。
 ポイントは、8K対応薄型テレビにIoT機能を搭載できるか否か。薄型テレビが映像提供以外に、5Gを活用したIoTサービスを提供できるかどうかである。

 4K薄型テレビは20年までの3年間、業界再活性化のための救世主となりそうである。ただし、それは薄型テレビが自己変革し、新たなサービスの提供に踏み切ったからではない。たまたま3つの外的好条件が重なり合い、偶然と幸運によって到来する特需である。このため、特需の期間は短く、出荷規模も前回特需の半分程度。そして次回の特需は、買い替え期間の長期化も作用し、限りなく遠い先に訪れる。

 5Gを背景に台頭する8K薄型テレビの商品・市場戦略が、真の救世主となり得るかどうかの運命を左右するだろう。

電子デバイス産業新聞 記者 松下晋司

まとめにかえて

 8Kはテレビ視聴などの放送分野以外でも普及が期待されています。医療や広告分野などが有力候補で、その超高精細映像がまずはBtoB市場で評価され、広がりを見せようとしています。こうしたなかで、ソニーは18年1月に米ラスベガスで開催された「CES」で8Kテレビを参考展示したほか、シャープも8K対応液晶テレビを業界に先がけて製品化するなど取り組みが活発化しています。まずはBtoB市場を皮切りに、その後BtoC市場での普及拡大を図っていく流れとなりそうです。

電子デバイス産業新聞