4月6日、パウエルFRB議長は講演で、インフレ率がターゲットの2.0%を超えてくる可能性があることと、3月の利上げに続いて、利上げを継続していく可能性について言及しました。

このパウエル議長のスタンスをタカ派的であると解釈して、米国株式市場は売りで反応しました。しかし、実体経済の足元はしっかりしていることも、米国の経済統計からは事実であると言えるでしょう。加えて、税制改革による減税効果が効いてくることが予想されます。

おそらくFOMC (米連邦公開市場委員会)の、年内に全部で3回の利上げとの見通しは、的外れなものではないと筆者は考えています。

逆イールド現象は景気後退の前触れ?

一方で、イールドカーブ(債券利回り)についての議論は、市場で最もホットな話題の一つとなっています。昨年末に平坦化していた利回り曲線は、2月初旬にいったん、傾きが右肩上がりにきつくなりました。これに伴って、拡大していた2年債と10年債の利回り格差は再び縮小に転じたのです。

年内の利上げが3回あるとの見方に立てば、短期債の利回りはさらに上昇し、逆イールドカーブのリスクにさらされると予想するアナリストは多くなっています。

過去のリセッション(景気後退)の多くのケースでは、実際に景気後退が確認される1年から1年半前に、先行して逆イールド現象が生じていました。米FRBがFOMCのコンセンサスとして示唆しているペースで利上げを継続した場合、FF金利誘導目標は2020年には3.0%台に引き上げられることになります。

ここまで金利が上がることを想定すると、景気が減速する公算が大きくなることが懸念され始めています。そして、米国経済の先行き(2018年以降)は、減税効果が発揮された後のピークアウト観測に加え、トランプ大統領の変節により保護貿易主義に陥り、米国景気が失速するという先行きの不透明感が拡がりつつあるのです。

足元の米国経済は加速中

ただ、現実には、米国経済は足元では加速しているというのも事実です。米国の成長率は、最新のFOMCのステートメントでは、2018年はそれまでの2.5%から2.7%へと拡大することが予想されています。

また、米議会予算局(CBO)の予測では、2018年の実質国内総生産(GDP)は10-12月(第4四半期)の前年同期比ベースで3.3%増にまで達すると見通されています。昨年6月時点では、2018年の伸び率予想を2%としていましたので、GDPの伸びは大きくなったことを意味します。

不透明感は拡がっていますが、利回り曲線は未だ逆イールドにはなっていません。10年米国債の利回りは、昨年12月末の2.40%水準から、現在は2.80%台と上昇しています。3カ月の短期米国債も、FRBの利上げが実施されたため当然ですが、40Bps(0.40%)ほど上昇しており、ほぼパラレル(平行)にシフトしています。逆イールド発生までには、まだまだ見極めが必要と思われます。

注視が必要な財政赤字の拡大傾向

もうひとつ、考えておかなければならない要素は、米国財政赤字の拡大傾向です。CBOの最新の報告書では、2018年度の米連邦政府の財政赤字は8040億ドルと、昨年6月時点の予測5630億ドルから大幅に増加する見通しとなりました。19年度には9810億ドルに達する見通し(従来予想は6890億ドル)も示されています。

米連邦政府の債務の増加傾向は明確になってきており、過去10年間で3倍に増加しています。米国債の発行は、足元でも3年債と10年債、30年債で計640億ドルが発行される予定で、1月よりも80億ドル増える見通しになっています。CBOの報告を受けて、財政赤字が今後数年にどれほど膨らむのかという議論が再燃するかもしれません。

膨らむ債券発行とインフレ加速、金融政策の変化といった見通しが重なり、国債需給の枠組みはこれまでの落ち着いた状況から一変するという指摘もあります。市場は19年度の赤字が今年度を大きく上回るという事実をまだ織り込んできていないと筆者は考えています。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一