大切な人が亡くなったとき、故人が遺したさまざまな品をどう扱っていいのか、戸惑ったことがある人も多いでしょう。遺品には故人の「心」が宿っているように感じられ、簡単には捨てられない気持ちになります。

また、預金通帳や保険証書など相続手続きに必要な書類や、手帳や住所録など個人情報が書き残されたものも含まれているため、遺品の分類やどう処分するかの判断には時間と労力がかかるものです。

筆者が遺品整理士資格を取得したきっかけ

身近な人との死別。その日は突然やってくることも多く、死別を経験した遺族は、日常とは違う心身の状態におかれます。そのような状態にある人のそばに寄り添い、支援することを「グリーフケア(悲嘆ケア)」と呼びます。

筆者は、2008年の夏まで祖母の介護をしていましたが、介護がすむと燃え尽き症候群になりました。自分では異常に気づくことができませんでしたが、持病のメニエール病が急激に悪化したことに、耳鼻科の先生が気づいて診察の頻度を上げ、話す機会を増やしてくださいました。

先生とは、特に深い話し合いをしたわけではありませんが、ただ日々の報告をするうちに、半年ほどかけて気力や体力が回復していきました。

後に、グリーフケアについて知ったとき、耳鼻科の先生は、耳の病気だけでなく心の状態にまで配慮をしてくださったのだと、初めて気づいたのです。

さらに、筆者は3級FP技能士資格を持つライターとして、相続や事業承継に関する記事を手掛けてきました。遺産や遺品、事業などを遺す側は、遺言書やエンディングノートで、自分の希望を伝え、節税などの準備ができます。しかし、遺される側の立場になるのは「ある日、突然」であることを、執筆活動のなかで実感しました。

親に「遺言書を書いておいてね」「身辺の整理をしておいてね」と頼むことは難しく、親がすでに認知症になっている場合など、対応ができないケースもあります。

死別を経験したご遺族には、相続、税務、お金の問題、心理面などさまざまな側面について、サポートが必要です。遺品整理を行うことは、遺族の生活の場を整え、心の整理をつけるための支援となります。

相続や事業承継に関わる職業の人、さらには精神・心理面での支援を行う職業の人が、遺品整理について知識を深めることに、きっと意味があると考え、遺品整理士認定協会の通信講座を受講することにしました。

遺品整理士へのニーズが高まる理由

「遺品整理士」というと、映画で知られるようになった「おくりびと」とどう違うの? とよく聞かれます。いわゆる「おくりびと」は「納棺師」といい、一言で言うと故人のご遺体を整える仕事です。

一方、遺品整理士認定協会が認定を行う「遺品整理士」とは、遺品にまつわる様々な業務を引き受けることができ、さらに法令を遵守する形で業務を行うことができる専門家と認められた人が認定を受ける制度です。

この制度が設けられた背景には、遺品整理業務へのニーズの高まりと、それに伴う悪質な業者の出現があります。

遺品整理業者が必要とされている理由は、次のようなものです。

  1. 高齢の親や祖父母と離れて暮らす世帯が増えていること:高齢者が亡くなった後、離れて暮らしてきた子や孫が「どう遺品を整理していいか分からない」とプロに依頼することが増えています
  2. 働き盛りのご遺族にとって遺品整理作業が負担になること:仕事を持つ子や孫にとって、遺品整理作業そのものが負担であるため、お金を払ってでもプロに依頼したいと考える場合も増えています
  3. 生前整理への関心も高まってきていること:独り暮らしの高齢者が「子や孫に迷惑をかけないように」と、いわば終活の一環として身辺整理をプロの業者に依頼する動きがあります

遺品整理士が取り扱う「もの」と「心」

遺品とは、亡くなった方が生前に使用していた生活用品や家電製品、衣類、家具など全般のことを指します。

遺品には、住所録や日記、手帳、パソコン、スマートフォンなど個人情報が掲載されたものや、中古品市場では値がつかないようなものであっても、故人やご遺族にとっては非常に意味深いものがあったり、逆に思いがけず貴金属や宝石などが出てくる場合もあります。