日本の材料メーカーには世界で活躍する企業が多数ありますが、その中の1社が東レです。理系にはおなじみの企業かもしれませんが、積極的なM&Aやグローバル顧客とのつながりを大事にする同社は、文系学生でも活躍できる場が多いはず。今回はそんな東レについて見てみましょう。

東レは三井グループの企業

東レは1926年、三井物産の出資により東洋レーヨンとして創立されました。1949年5月に東京証券取引所に上場、1970年には社名を東レに変更しています。

2017年3月期の連結従業員数は4万6248人で、うち単体の従業員数は7220人です。また、平均年間給与は700万円近い697.7万円となっています(平均年齢は37.2歳)。

7220人のセグメント別内訳を見ると、最も多いのが伝統ある「繊維事業」で1466人、次いで注目の「炭素繊維複合材料事業」が1353人、「情報通信材料・機器事業」が1313人と続きます。

東レの炭素繊維事業の強み

東レの炭素繊維供給量は市場でも圧倒的な位置を占めるうえ、その用途と市場も伸びています。炭素繊維事業においては、長い期間をかけて最重要顧客である米国ボーイング社との緊密な関係を築き上げ、重要なパートナーに認定されていることをご存じの方も多いでしょう。

実際、東レとボーイング社は50年近い付き合いがあり、両社は共同で次世代素材の炭素繊維を航空用途として研究・開発。1975年にはボーイング737の2次構造材に採用されました。

また、1990年にはボーイング777向け1次構造材に認定されています。同社による推定では、ボーイング777には1機当り約10トンの炭素繊維複合材が使用されていると見られます。

さらに、2006年にはボーイング787向け1次構造材の供給契約が結ばれていますが、炭素繊維複合材の使用量は1機当り約35トンと見られるなど、その使用量を大きく伸ばしました。なお、ボーイング787のみならず、より大型の777Xでも機能性向上・軽量化推進のため、供給契約を締結しています。

このように、グローバルな顧客との長期間にわたる共同研究、開発、そして事業展開と拡大が東レの強みであり、戦略でもあります。同社は単なる素材供給メーカーではなく、顧客の事業に必要不可欠なパートナーとしての地位を獲得していると言えるでしょう。

現状でも東レの主力事業は繊維事業

炭素繊維で注目を集める同社も、伝統の繊維事業セグメントが今も売り上げ全体の40%近くを占めています。

ただ、繊維事業セグメントといっても、単に材料を提供するばかりではなく、その取り組みはより深いものだといえます。よく知られるように、ユニクロのような大手SPAや欧米のアパレル企業がその顧客となっています。

また、エアバッグ基布も展開していますが、ここでは原糸から基布までの一貫生産を行っています。自動車生産台数の増加もさることながら、サイド・カーテンエアバッグの装着率が上昇していることから、先進国や新興国でもさらに事業が拡大していくと見られます。

こうした先端の繊維事業も数多くあることから、同事業は引き続き東レの収益基盤を支える柱であると言ってよいでしょう。

投資家目線でのツッコミどころ

東レは株式市場では優等生として捉えられているのは間違いありませんが、様々な数値を見ていくと必ずしもそうとは言い切れないところもあります。

まず、全社の売上総利益率が20%程度と、高機能材を扱っている割には低いのではないかという点です。扱う事業や商品の多さから、結果的に生産性の低くなる事業や商品が残っているのではないかと推測できます。

また、ROEは現時点で10%程度ですが、同社ならばもっと改善できると考えている投資家も多いのではないでしょうか。中期経営計画での目標も「約12%」とそれほど高いものになっておらず、これではPBRは切り上がりにくいと言わざるを得ません。

株主還元についても、投資機会が多いためか配当性向が22%程度と、抜群に良いとは言えない水準です。

こうしてみると、同社は事業の整理および投資の選択と集中をこれまで以上に進めることで、いっそうの優良企業となる可能性を秘めていると言えるのではないでしょうか。

――東レの基盤事業は繊維事業であり、全社でさらなる収益率改善に期待したい――

LIMO編集部