皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。

前回の(その1)では、2014年に約4兆円まで落ち込んだ経常収支の黒字額は、2015年に約16兆円、2016年に約20兆円、2017年(速報)に約22兆円と、基調として経常収支の黒字額が増加しており、この動きは(理屈としては)外貨安・円高要因(実需の円高要因と呼ばれることがあります)となることをご説明しました。

一方で、この期間に必ずしも米ドル安・円高になっていないことをお話した上、2017年では、経常黒字の変化と比較して、米国と日本の金利差に対する思惑が、いっそう為替の決定要因として強かったと考えていることもご説明させていただきました。

わが国では、2019年10月には消費税率の引き上げが予定されており、引き上げを実施するか、否かの最終判断は、2018年末頃に行われる可能性が高いと思われます(公文書の書き換え問題が影響を与える可能性があります)。

このような環境の中で、米ドル/円で100円を超えるような円高が発生した場合、(実際の企業収益は一定程度底堅いと私は考えますが)企業が発表する2019年3月期の業績予想は保守的なものになることに加え、市場や消費者、企業の心理に悪影響を与えることは明白です。

したがって、秋の自民党総裁選から2018年末頃にかけては、企業収益の悪化観測の発生やこれに伴う株価の下落を防ぐ誘因が政府にあると考えることは自然であり、100円を超えるような円高が進展した場合に、わが国の政府や日銀はなんらかの対応策を打ち出すと考えます。

私が思うに、円高対策には、3つの手段があり得ると考えます。

まず、為替水準を変動させることを目的とした為替市場への介入です。

(その1)でご説明したとおり、経常収支の黒字は、民間部門の(実需の)米ドル売り・円買いをもたらしている可能性が高いですから、円高になることは自然なことです。とすれば、需給的観点からは、上記民間部門の動きに対応するため、政府部門が米ドル買い・円売りの取引を行えば、円高の動きは止まるはずです。

しかし、(その1)でご説明したように、実質実効為替レートで必ずしも過度な円高が進んでいるとはいえない状況の中、 外国政府との関係を考えると(投機的な動きによる短時間での大幅変動でもないかぎり)介入は政治的には難しい面があると思われます。

2つめの手段としては、米ドル高・円安に働く要因の力を強めることです。

この観点からは、2017年の為替市場に大きな影響を与えたと思われる「日米金利差に対する思惑」を利用することが、有力な手段になると思われます。

(その1)でもご説明した通り、 「日米金利差に対する思惑」が為替の決定要因として弱くなった理由は、米国にあるのではなく、日本が金融正常化に向かうとの見方を持つ投資家が一定程度存在することにある(以下、正常化観測)と考えるため、日銀が「正常化観測」を否定するような材料を提供することが必要と考えます。

物価上昇率目標2%が達成できていない中でも、正常化観測が根強い理由の一端は、「日銀がめどとしている長期国債保有残高の増加額年間約80兆円が、2017年に約58兆円まで減少していること」などがあります(図表1、明示しない先細り(ステルス・テーパリング)と呼ぶ人もいます)。

そこで、保有額の増加ペースを再加速させることは有力な手段ですが、再加速と10年国債金利をほぼゼロに操作するという金融政策は両立できない可能性があります。なぜなら、保有額を増加させようとすれば、通常は自然体より高い値段(低い金利)で長期国債を購入する必要があり、操作目標以下への金利の低下を招く可能性があるからです。

したがって、いまのフレームワークを維持しながらの新しい追加緩和策(例:ほぼゼロへの誘導をする国債の年限を10年から、さらに長い年限に切り替えるなど)を日銀が採用することは、有力な対応策になると考えます。

図表1:日銀の保有する長期国債増加額の推移

出所:日本銀行ホームページ掲載データを基にアセットマネジメントOneが作成。

最後に、3つめの手段としては、政治的なリーダー・シップ、具体的には、米国と日本の緊密な連携を市場に示し、通商問題における日本の立場を明確化することです。

現在のトランプ大統領と安倍総理の関係は、「親密である」と評価できるとの報道を皆さんも目にされているのではないかと考えます。私は、場合によっては、4月に予定されている安倍総理の訪米が為替相場安定のきっかけになる可能性を考えています。

次回以降で、この3つめの手段について、もう少し詳細にご説明させていただきます。

(2018年3月16日 9:00執筆)

柏原 延行