様々な動物が生まれついて有する「インセスト・タブー」

近親相姦(インセスト)は、世界じゅうで古くからタブー視されていますが、なぜタブーなのかはわかっていないそうです。隠れていた不良遺伝が発現されやすくなるからだとされていますが、確たる根拠はないようです。もちろん日本では刑罰法規もありません。

インセスト・タブーは人間の世界だけはありません。霊長類生態学者の山極寿一氏の著書『オトコの進化論―男らしさの起源を求めて』によれば、両生類、鳥類、げっ歯類では形や声、臭いを手がかりにして近親者を識別し、インセストを回避しています。

ところが我々霊長類には、近親者を見分ける能力はないようです。ニホンザルなどでは、血縁関係にある父と娘、(父親が同じ)兄弟姉妹の間に子どもが誕生しているからです。

霊長類がインセスト・タブーを回避する手がかりは、親密度

もちろん霊長類にも、インセスト・タブーはあります。どうやって近親者を見分けるかというと、幼少時や過去の親密度です。

幼少時から世話をされ、密接な間柄のオスとメス。あるいは交尾季に親密になったオスを、メスは交尾季終了後も保護者として頼ります。しかし、なんとこの間柄でも、交尾を嫌がるようになるのだそうです。

ちなみにタブー視されるインセストとは、まず親子間、次に兄弟姉妹、さらにオジと姪(オバと甥)などです。兄弟姉妹でも母親が同じ場合のみで、父親が同じ場合はタブーではありません。

人間の歴史上でも父親が同じ兄と妹の結婚はありますが、母親は異なっています。言うまでもなく現代では、父母を問わず親が同じ兄弟姉妹の結婚は法律で禁じられていますが。

生後1年、子育ては母ゴリラから父ゴリラに移行する

前掲『オトコの進化論』では、オスは生来、子育てへの欲求はなく、メスの要求によって開始されるようです。子育てによって親密な関係を築いてもらないと、インセスト・タブーを犯す危険は高まるというわけでしょうか。

ゴリラの母親がそこまで考えて行動しているわけではないでしょうが、我が子が1歳になると徐々に父親のそばに近づけるようになります。厳密にいえば父親とはかぎりませんが、とりあえずオスに託すようになるのです。

その代わり母親は我が子が1歳になるまでは腕のなかに抱いて、滅多に子どもを手放しません。他のメスや兄弟姉妹であっても、触らせてもくれないそうです。

最初は母親を探していた子どももやがて、父親や他の兄弟姉妹たちと過ごす時間が増え、その分、母親は子どもから遠ざかるようになります。父親は兄弟ケンカの仲裁にも威力を発揮するなど、よき保護者になっていくのだそうです。

インセスト・タブーのない相手を求めて旅立つ、ゴリラの息子と娘

3歳になって完全に乳離れをすると、寝床も父親のそばにつくるようになり、母親からはますます離れていきます。さらに思春期になると、集団そのものから離れていきます。

幼児期に親密になったことのない異性との交尾を求めて、メスは新たな集団に参加し、オスは独立して新たな集団をつくるのです。

インセスト・タブーの面からいえば、父親の子育て参加を促しておくにこしたことはなさそうです。ゴリラの話ですから、そのまま人間にあてはまるわけではないでしょうが。

間宮 書子