2. 年金額の改定の仕組み

年金額は毎年度、物価や賃金の変動に応じて改定する仕組みになっており、改定にはルールが設けられています。

2.1 物価変動率と賃金変動率

一つ目のルールが物価変動率と賃金変動率によるルールです。

年金額は、新規裁定者(67歳以下で年金を新たに受け取る人)と、既裁定者(68歳以上ですでに受給している人)では計算方法が異なります。

新規裁定者は賃金変動率を用いて計算し、既裁定者は物価変動率と賃金変動率を比べて低い方の変動率を用いて計算します。

2024年度は賃金変動率が物価変動率を下回ったため、新規裁定者、既裁定者ともに賃金変動率を用いました。

物価と賃金の変動率の詳細を確認してみましょう。

2024年度の指標となる物価変動率は、前年の消費者物価指数(CPI)の変動率3.2%を用います。

賃金変動率は「名目手取り賃金変動率」です。

「名目手取り賃金変動率」とは、2年度前から4年度前までの3年度平均の実質賃金変動
率に前年の物価変動率と3年度前の可処分所得割合変化率(0.0%)を乗じたものです。

実質賃金変動率(▲0.1%)+物価変動率(3.2%)+可処分所得割合変化率(0.0%)=3.1%

計算式は難しいですが、「名目手取り賃金変動率」を簡単にいうと、物価の変動を考慮した手取りの賃金の変動率になります。

  • 物価変動率:3.2%
  • 名目手取り賃金変動率:3.1%

物価変動率よりも名目手取り賃金変動率の方が低いので、名目手取り賃金変動率3.1%を用いて改定します。

2.2 マクロ経済スライドによる調整

二つ目のルールが「マクロ経済スライド」による調整をすることです。

賃金や物価の変動率から、マクロ経済スライドによるスライド調整率を差し引いて、年金額を改定します。

マクロ経済スライドとは

現役世代の人口減少や平均余命の伸びに基づいて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。

2004年の年金制度改正により導入されました。

年金額は物価や賃金の上昇にあわせて増えていくのが理想です。

しかし、少子高齢化により、将来の現役世代が減ることで保険料収入が減少し、一方で、平均余命が伸びることで、年金給付は増加するため、年金財政の均衡が崩れる恐れがあります。

そこで、均衡を保てるように、賃金や物価が上昇するほどは年金を増やさないように調整する仕組みが「マクロ経済スライド」です。

「マクロ経済スライド」は、時間をかけて緩やかに年金の給付水準を調整するもので、これによって将来にわたって年金制度を安定させることができます。

スライド調整率

公的年金被保険者の変動と平均余命の伸びに基づいて、「スライド調整率」を設定します。

2024年度のマクロ経済スライドによるスライド調整率は▲0.4%です。

公的年金被保険者総数の変動率(▲0.1%)+平均余命の伸び率(▲0.3%)=▲0.4%

適用にはルールがあり、賃金と物価の変動がプラスとなる場合に改定率から差し引きます。

伸び率が0以下の場合は適用せず、また、伸び率がプラスであっても、調整率を引くことで0になれば0、マイナスになることはありません(前年度と同じ給付水準を維持)。

ただし、マクロ経済スライドによる調整を将来世代に先送りしないために、調整しきれなかった分(本来引くべきところを引けなかった分)は翌年度以降に繰り越す制度も作られました。

これを「マクロ経済スライドの未調整分」といいます。

2023年度は2021、2022年度の未調整分があったため、本来のスライド調整率0.3%に未調整分0.3%が足されて、0.6%差し引かれました。

2024年度は未調整分はないため、マクロ経済スライド調整率はそのまま▲0.4%です。

以上のことから、2024年度の年金額の改定率は、名目手取り賃金変動率3.1%からマクロ経済スライドによるスライド調整率0.4%を引いて、2.7%となります。

3. 実質的には年金は目減り

物価や賃金の上昇率からマクロ経済スライドの調整率が引かれると、物価や賃金の上昇ほど年金額が増えないということなので、実質的には目減りしていることになります。

年金額のプラス改定が素直に喜べない理由がおわかりになったでしょうか。

「マクロ経済スライド」は、世代間の公平性や年金財政の健全化を進めていくために必要な仕組みです。

今後も年金額は「実質目減り」が続いていくでしょう。

そのため、老後の生活を安定させるためには、個人による老後の備えが重要になってきます。

老後資金をコツコツ貯める、長く働くためのプランを考えるなど、できることから始めていきましょう。

参考資料

石倉 博子