3. 一時金受取の注意点

先ほどのAさんの例では、公的年金等控除額の段階を超えないように年金額を調整するか、一時金受け取りにして退職所得控除を利用することで、負担増を回避できるかもしれません。

そこで、ここからは一時金受け取りをする場合の注意点をお伝えします。

一時金受け取りの場合は、勤続期間に応じた退職所得控除が受けられます。

iDeCoの場合は加入期間を勤続期間とみなして計算します。

たとえば、iDeCoに25年加入した場合は、下記のように計算し、1150万円まで非課税となります。

800万円+70万円×(25年-20年)=1150万円

しかし、iDeCoの他に会社からもらう退職金がある場合は注意が必要です。

両方を同時期に受け取ってしまうと、それぞれの金額を合算して退職所得控除額が計算されます。

(勤続期間(加入期間)は長い方を採用)。

両方を合計しても非課税枠に収まれば問題ありませんが、iDeCoの一時金や退職金が多い場合は、非課税枠をオーバーして税金を多く払うことになります。

iDeCoの一時金と退職金を受け取る時期をずらせば解決するかといえば、そう簡単ではありません。

たとえば、先に退職金を受け取って、あとからiDeCoを一時金で受け取る場合、iDeCoの受け取りの「前年以前19年間に一時金で受け取った退職金」は合算の対象となります。

つまり、20年以上は間をあけないと退職所得控除を再度使えないというわけです。

ただし、iDeCoの一時金を先に受け取る場合は、別のルールになります。

この場合は、「前年以前4年間に一時金で受け取った退職金」が合算の対象となります。

つまりiDeCoを一時金で受け取り、そこから5年以上経過したあとに退職金を受け取れば、合算はされず、それぞれ退職所得控除が適用できるというわけです。

5年以上ずらすことが可能であれば、先にiDeCoの一時金を受け取って、あとから退職金を受け取ると節税になります。

4. まとめにかえて

iDeCoは税制上のメリットが大きい制度ですが、受取方法によってはそのメリットを活かせない場合があります。

特に年金や退職金が多い人は、受取方法の選択によって税金や社会保険料の負担に大きな差が出ます。

iDeCoの受取方法の最適な選択をするために、年金と退職金はいくらもらえるのか、いつもらうのか、老後に向けて早めにプランを立てておくといいでしょう。

参考資料

石倉 博子