iDeCo(個人型確定拠出年金)は、税制上のメリットを受けながら老後の資産づくりができる年金制度です。
2024年1月4日の発表では、現存加入者数が約314万5000人、当月の新規加入者数は約3万人であることがわかりました(2023年11月時点)。
掛金が全額所得控除になることや運用益が非課税になることばかりに目が行きがちですが、運用が終わったあとの受取方法がとても大事です。
せっかく非課税になっているのに、受取方法によっては、税金がかかるだけでなく、医療費や介護費用の負担が増えることもあります。
より豊かな老後生活を送るために、iDeCoの出口戦略もしっかり考えましょう。
1. iDeCoの受取方法は3つ
iDeCoで作った老後資金は、原則60歳から75歳までの間に受け取ることができます。
iDeCoの3つの受取方法を確認しておきましょう。
- 一時金として一括で受け取る
- 年金として受け取る
- 一時金と年金を組み合わせて受け取る
1.1 一時金として一括で受け取る
iDeCoを一時金として一括で受け取る場合は、退職所得として扱われます。
退職所得は、次の計算式で求めます。
(収入金額-退職所得控除額)×2分の1=退職所得
退職所得控除額は勤続年数によって計算方法が異なります。
<勤続年数20年以下>
40万円×勤続年数(最低80万円)
<勤続年数20年超>
800万円+70万円×(勤続年数-20年)
※1年未満の端数がある場合は1年に切り上げて計算
たとえば、勤続年数30年の人の退職所得控除額は以下のようになります。
800万円+70万円×(30年-20年)=1500万円
退職所得は、勤続年数が長いと控除額が大きくなり、また、収入金額から退職所得控除額を引いた金額の2分の1になるため、税金が抑えられます。
このように、退職金は老後の生活を支える大きな柱となるように、税金面で優遇されています。
1.2 年金として受け取る
iDeCoを年金として受け取る場合は、雑所得として扱われます。
雑所得は、公的年金等とそれ以外に分けられ、iDeCoは公的年金等に含まれます。
そのため国民年金や厚生年金、企業年金などと合算して税額が計算されます。
公的年金等の収入金額-公的年金等控除額=雑所得
公的年金等控除額は年齢や収入金額によって異なります。
公的年金等の収入金額が、65歳未満の場合は60万円まで、65歳以上の場合は110万円までであれば課税されません。(公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が1000万円以下の場合)
年金額が多めである厚生年金受給者は、iDeCoを年金で受け取ることによって、税額が増える可能性もあるので注意しましょう。
1.3 一時金と年金を組み合わせて受け取る
60歳になったら一部を一時金で受け取り、残りを分割で受け取るなど、一時金と年金を併用することも可能です。
この場合、一時金の部分は退職所得、年金の部分は公的年金等の雑所得として、それぞれの控除を受けることができます。
iDeCoの受取額と受取時期、退職金の額、公的年金の額など、総合的に見て受取方法を判断する必要があります。
2. 年金受取にした場合の問題点
iDeCoを年金受取にしたAさんを例にして、どのような問題があるのかシミュレーションしてみましょう。
2.1 税金と社会保険料を試算
Aさん(70歳・八王子市在住・1人暮らし)は厚生年金を250万円受給しています。
iDeCoの老齢給付は1200万円となり、10年の有期年金として120万円ずつ受け取ることにしました。
年金収入が厚生年金のみの場合とiDeCoの年金(120万円)を加算した場合の税金と社会保険料を試算してみます。
厚生年金のみの場合は、国民健康保険料が約15万円、介護保険料が約9万円、所得税が約3万4000円、住民税が約7万5000円となり、税金と社会保険料の合計は約34万9000円となりました。
iDeCoを年金受取にして年金収入が370万円になると、国民健康保険料は約25万7000円、介護保険料は約10万円、所得税は約8万3000円、住民税は約17万4000円となり、税金と社会保険料の合計は約61万4000円と大きく増えました。
その差は約26万4000円です。
このように、iDeCoを年金受取にして、年金収入が増えてしまうと、税金や社会保険料の負担が増える可能性があります。
2.2 医療費の自己負担割合が上がる
さらに、注意したいのが医療費の自己負担割合です。
Aさんは厚生年金を250万円受給しているため、一定以上の所得があると見なされ、医療費の自己負担割合は2割となります。
しかしiDeCoを年金受取にして年金収入が370万円になると、現役並み所得者とされ、自己負担割合は3割になってしまいます。
介護保険サービスを受けたときの自己負担割合も同じように2割から3割に上がってしまいます。
高齢になると医療や介護のお世話になる機会が増えてくるので、自己負担割合が増えるのは税金が増える以上に家計にダメージを与える可能性があります。