電気炊飯器を探し歩く、88歳のおじいちゃま

白物家電が好調です。2017年の国内出荷額は前年比2%増の2兆3479億円で、2年連続の増加。1997年以降、最も高い数字になりました。省エネ型エアコン、大容量の洗濯機、少人数世帯向きの中・小型冷蔵庫などへの買い替え需要が好調の要因になったようです※。

※一般社団法人 日本電機工業会「民生用電気機器 2017年12月度ならびに2017年(暦年)国内出荷実績」より

家電の話になると思い出すのが、電気炊飯器を探し歩いている男性です。1930年生まれの88歳。何よりもご飯が好きで、ご飯と漬物、みそ汁さえあれば何もいらないというおじいちゃまです。

栄養学の専門家が聞いたらひっくり返りそうな粗食ですが、おじいちゃまは元気そのもの。セーブしながらですが仕事を続けていますし、遠出の旅にも出かけますし、新聞だって眼鏡なしで読みます。目下の課題は、ご飯をもっと美味しくすることだそうです。

今の電気炊飯器より昔の電気釜が、さらに竈炊きはもっと美味?

おじいちゃまが探している電気炊飯器は、70年代初めの製品です。炊飯器機能しかなく、保温も満足にできないものです。この炊飯器で炊いたご飯を食べたとき、とても美味しかったそうです。その味が忘れられず、あちこちのリサイクルショップを尋ねたり、メーカーに問い合わせたりしてみましたが、いまだに見つかっていません。

おじいちゃまによると「最近の炊飯器も最初はうまいんだが、すぐにうまくなくなる」のだとか。炊飯が竈炊きからガス、そして電気に変わったとき、多くの人が「電気のご飯はまずい」と言いました。さらに高・多機能の電気炊飯に変わり、今度は「昔の単純な電気釜は美味しかった」との声に移り変わりました。

トースト、キャベツ、氷も、昔ながらが美味しいという声

似たようなボヤキは、パンにもあります。

「オーブントースターで焼くとまずいからねぇ」

このボヤキをあげる女性は、50年以上も使い続けているトースターで焼いたパンを毎朝食べているそうです。長方形の深い縦穴2列にパンを入れて焼き、焼きあがるとポンッと自動的に飛び出すものです。オーブントースターが登場する前までは、どこの家でもこうしたトースターが使われていました。

電化製品ではありませんが、キャベツの千切りにも似たような声があります。千切りをするスライス器具を使ったほうが速くてきれいなのですが、あえて包丁を使っているそうです。さらに飲み物には、冷蔵庫の氷を使わないという人もいます。

調理家電の先端技術とは、便利さ、それとも味わい?

昔の調理器具のほうが美味しく感じるのは、最初に覚えた味に固執しているからなのでしょうか。それとも機能が進歩するにつれて、味は退化していくものなのでしょうか。はたまた機能にばかり目が集まり、味は二の次になっているからなのでしょうか。

竈炊きに近づけた電気炊飯器を売り出すなど家電メーカーも味への意識はあるようですが、消費者のニーズをくみ取りきれていないということでしょうか。

いずれにせよ、機能の進化は便利さをもたらしてくれます。現代人が便利さや手早さを求めているのは否定できないところですが、この先、高齢者はさらに増えていくでしょう。便利さより味わいを重視した技術開発もありかな、と思わないでもありません。

間宮 書子