投信1編集部による本記事の注目点

  • 2017年の中国のデバイス業界とエレクトロニクス業界は、今までとは次元の違う本格的な成長を始めた年になったようです。
  • 最近の中国報道を見ていると「●●大国」ではなく、「●●強国」という文字を目にするようになりました。
  • 中国のエレクトロニクス業界は、「世界の下請け工場」から「独自技術による中国標準の世界マーケット進出」のステージへ移行を始めたと認識を改める必要があるでしょう。

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上海支局長が選ぶ「中国トップ10ニュース」

このコラムを書くようになって、2015年から年末に中国のエレクトロニクス業界をトップ10ニュースで振り返っている。今回はその3年目。

17年に書いた記事を読み返してみると、中国はどのデバイス業界でも「とにもかくにも工場投資だらけ」の1年だった。日本ではこんな時代が来ることもそうないだろうし、中国でも他業界では大型投資が一巡してしまっている場合が多い。それなのに、中国のデバイス業界はまさに設備投資ラッシュのど真ん中。しかも18年もこの勢いは止みそうにない。

第1位 「300mm半導体工場の爆投資スタート」

長江ストレージの3D-NAND工場は3棟(計300K)を計画

中国の300mm半導体工場の立ち上げラッシュが始まった。建設中の工場が17年末から18年初頭に続々と棟上げし、18年には13工場が稼働を始める。その月産能力は十数万枚にも及ぶ。18年の中国の半導体工場の設備投資は110億ドル(約1.2兆円、前年比60%増)に跳ね上がり、中国は台湾を抜いて世界2位の半導体工場の投資国に浮上する。

第2位 「世界最大の10.5Gパネル工場が稼働」

シャープ堺の世界最大サイズの液晶パネル工場の称号が、中国メーカーにとって代わられた。BOE(京東方科技、北京市)は17年12月、試作パネルの点灯式典を開催し、名実ともに10.5G工場を稼働させた。まだ歩留まりが低く、正式な量産体制にはない。

しかし、05年の5G工場の稼働開始から12年で、世界トップメーカーに躍進した。BOEと競合するCSOT(華星光電、広東省深セン市)も、BOEの1年遅れとなる18年末に10.5G工場を稼働させる。

第3位 「欧中が手を組み中国のエコカー工場建設を加速」

商業施設の駐車場は充電設備の設置が義務づけられている

電気自動車(EV)で世界最多販売を誇るBYD(比亜迪、広東省深セン市)は17年、米ハリウッド俳優のレオナルド・ディカプリオを抜擢したテレビCMを放映した。中国エコカー企業の積極的なビジネス展開は19年に向けてさらに加速する。中国政府が19年4月から「中国版ZEV(排ガスゼロ自動車)」規制の正式運用を開始するからだ。

世界最大の自動車市場の中国でガソリン車だけ売っていればいい時代はまもなく終わり、エコカーの生産も拡大しなければいけなくなる。海外の自動車メーカーはこぞって中国の自動車メーカーと合弁し、エコカー工場を着工し始めた。

第4位 「太陽光発電設備の導入量が単年50GW超え」

15年に20GW、16年に35GWだった中国の太陽光発電設備の単年導入量が、17年はなんと50GWを超えた。7月の補助金削減で販売減速が起きるという17年前半の予測は大きく外れた。中国政府が内陸都市の事業者(工場や商業施設など)の屋根に設置する分散発電方式に補助金メリットを大きく与えたことが、爆発的な増加につながった。

中国の太陽光発電の導入量はこの数年いつも予測が外れて、予測をはるかに上回っている。果たして、18年はどれくらいの規模になることか、予測するのは昨年よりも難しくなった。

第5位 「XMCが32層の3D-NANDを開発」

17年夏ごろ、取材活動のなかで「某メモリーメーカーの間で激震が走った」という情報をキャッチした。武漢のXMCがサムスンとよく似た32層の3D-NANDを試作したというのだ。このニュースの真偽は確認できなかったが、この情報の渦中に近い人たちの間では定説のように語られていた。

もともとXMCは技術パートナーのスパンションから32層の3D-NANDの技術を供与してもらっているが、今回完成した試作品はサムスンのコピー品だというのだ。

実際に西安サムスンから大量の技術者がXMCに移籍しているし、XMCの技術者はことあるごとにベンダー企業に「サムスン向けの装置や材料の仕様」に関する情報提供を求めているという。XMCの親会社の長江ストレージ(YMTC、長江存儲科技)は18年4月、ついに開発用ミニラインを立ち上げる。

第6位 「ファーウェイ、スマホ出荷1.6億台(世界シェア10%)」

数年前には考えられなかったことだが、今となっては中国スマホが世界市場で不動の地位を築いたと言っても誰も否定しなくなった。もはや日本人でもなければ、購入の際の選択肢に日本ブランドを挙げる人は数少ない。

ファーウェイは17年に1.5億~1.6億台のスマホを出荷し、世界シェアを2桁の10%に押し上げた。独ライカと共同開発した光学レンズを搭載し、自社製アプリケーションプロセッサー(AP)にAI処理するニューラル・プロセッシング・ユニット(NPU)を組み込んだ。画像認識機能で被写体を識別して最適な撮影設定をこのAIチップが自動アシストしてくれる。

ファーウェイは18年に2億台出荷に挑戦し、20年過ぎにはサムスンを超えて世界トップの座を狙っている。

第7位 「中国、バイドゥ(百度)を中心に国家AI開発センターを設立」

バイドゥとファーウェイはAI共同開発で提携した(17年12月)

中国政府は17年2月、百度や清華大学、北京航空航天大学、中国信息通信研究院と中国電子技術標準化研究院などで構成される国家レベルのAI研究機関(北京市)を設立した。ディープラーニングや画像の顔認識や音声による言語認識などの技術を開発する。

中国政府はテロ対策として交通インフラの公共カメラで撮影した映像に顔認識をかけ、人物を特定する技術の実験を重ねている。「試験地区となった浙江省の寧波市では、このシステムが数人の全国指名手配犯を発見して、駆けつけた警官が犯人を検挙した」というニュースも流れた。中国版グーグルといわれる百度は、AIを駆使した自動車の自動運転システムも開発している。

第8位 「台湾で半導体の技術流出の訴訟が増加」

台湾では半導体メーカーを離職した元社員を相手に、離職前に不正に技術情報を持ち出したと訴える裁判が増加している。中国で複数の大型メモリー工場が建設中で、中国企業や中国企業に技術支援する台湾企業への転職者が技術流出の原因になっているとの警戒感が強い。

こうした人材の引き抜きには、年収の数倍や数億円単位の金額が手当てされるという業界の噂話もよく耳にする。中国では20年にIC設計人材が6万人不足すると半導体協会の幹部が発言したように、しばらくは人材の引き抜きと技術流出の訴訟問題は収束する気配がない。

第9位 「AMECがLED用MOCVD装置を国産化」

中国のLEDチップ工場に導入されるMOCVD装置はこれまで、独アイクストロンと米ビーコの2社が市場を席巻していた。

中国の装置メーカーのAMEC(中微半導体設備、上海市)は16年末から国産のMOCVD装置を発売し、17年末までに100台を販売した。中国の大手LED製造のサンアンオプト(三安光電)やHCセミテック(華燦光電)などに採用され、今後は中国市場の半分近くのシェアを獲得すると分析するアナリストもいる。

主力のプラズマエッチング装置に加えてMOCVD装置の販売が業績を押し上げ、AMECの17年の売上高は初めて10億元(約170億円)を超えた。

第10位 「シェア自転車、大都市圏で導入から1年で一気に飽和」

駐輪スペースからあふれたシェア自転車をバンで回収して移動させる

中国のIoT技術が独自の凄まじいスピードで進化し始めたことを説明する際に語られる代表例が、「シェア自転車」だろう。北京大学の卒業生らが創業した「オーエフオー」(Ofo、拝克洛克科技、北京市、車体は黄色)やモバイク(摩拜科技、北京市)は、駅から自宅や学校、勤務先の区間などの徒歩に代わる交通手段として、スマホアプリと連動した自転車のレンタルサービスを全国の主要都市で展開している。

15年は全国で200万台しかなかったが、16年は2000万台、17年は5000万台以上に急拡大した。上海や広州などの大都市では1年やそこらでシェア自転車が街なかで飽和状態になり、これ以上は導入しないように政府が規制策を打ち出した。世界最大手となったドローン(無人飛行機)のDJI(大疆創新科技、深セン市)しかり、中国が一部のIoT製品を牽引し始めた。

17年の中国のデバイス業界とエレクトロニクス業界は、今までとは次元の違う本格的な成長を始めた年になったように感じる。中国政府はよく「鉄鋼大国」とか「スマートフォン大国」のように「●●大国」という呼び方をすることが多かった。しかし、最近の中国報道を見ていると「●●強国」という文字をよく目にする。

両者の違いは、簡単に言うと「生産量で最大規模」というのが「大国」、技術力があって国際市場で競争力を発揮できるのが「強国」ということになる。中国のエレクトロニクス業界は、「世界の下請け工場」から「独自技術による中国標準の世界マーケット進出」というステージへの移行を始めたと認識を改める必要があるだろう。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

投信1編集部からのコメント

今回の「トップ10ニュース」は、順位はついているものの、いずれも重要なものばかりで、強く印象に残っている内容も多いと感じます。日本からも、こうしたニュースが出てくればもっと面白くなるのにと思いますが、いずれにしても2018年も引き続き、中国からは目が離せないでしょう。

電子デバイス産業新聞×投信1編集部

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