超高齢社会で健康食品ブーム到来
日本は超高齢社会だ。超とついているのは、大げさに言っているわけではなく、WHO(世界保健機構)と国連により定義されている。全人口の65歳以上が占める割合が7%を超えると「高齢化社会」になり、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」と呼ばれているのだ。
日本は1970年にすでに高齢化社会になっており、1995年には高齢社会、さらに2010年には世界に先駆けて超高齢社会に突入した。2025年には30%を超えると言われている。
こうした超高齢社会では健康に気を使う人が増加するため、テレビCMや通販番組では、多くの健康食品を販売している。
疲労回復効果があるとされるタウリンだが……
健康食品のなかでも、疲労回復をうたったエナジードリンク(栄養ドリンク)は人気が高い。今までは製薬会社が製造・販売していた、あの小さな茶色の瓶に入ったものが定番だったが、海外のエナジードリンクが参入してきたことにより再ブームになった。
エナジードリンクの多くに配合されているのがタウリンだ。タコやイカ、牡蠣に多く含まれていて、疲労回復効果があるとされている。しかし、疲労回復の科学的根拠はないというのだ。
疲労回復、メタボ予防効果があるバレニンとは?
近年ブームとなったもののなかに、鶏むね肉がある。鶏肉には疲労回復効果のある「イミダゾールジペプチド」が豊富に含まれており、さらに栄養価が高いのにもかかわらず低カロリーで、しかも低価格だから人気が出た。
肉体疲労や精神疲労の原因となるのが活性酸素で、これを消去する抗酸化物質がイミダゾールジペプチドと言われている。ジペプチドとはアミノ酸の集合体のことで、イミダゾールジペプチドは「ヒスチジン」と「アラニン」という2つのアミノ酸が結合したもの。
成分として鶏肉に多く含まれている「カルノシン」や、マグロやカツオなどの回遊魚に多く含まれている「アンセリン」が有名で、最近の研究結果から「バレニン」にも注目が集まっている。
バレニンは疲労物質の発生を抑えるだけでなく、効率的に体脂肪を燃やすため、メタボ予防の作用があるとも言われている。さらに筋肉耐久力の向上も期待できるというのだ。
このバレニンを多く含んでいるのがクジラ肉だ。鶏肉や豚肉にも含まれているが、バレニンの含有量を比較すると、100gあたり鶏肉5mg、豚肉48mg、イワシクジラ肉1285.3mg(データは釧路水産試験場の『平成21年度事業報告書』から)で、鶏肉と比べて250倍以上も多い。
なぜクジラ肉にはバレニンが多い?
クジラは半年を餌場で過ごし、もう半年は絶食状態で子育てをする。しかも数千kmもの長い距離を不眠で泳ぐ哺乳類だ。このパワーの原動力となっているのがバレニンだと考えられている。
渡り鳥は数千kmも飛び続ける必要があるため、カルノシンやアンセリンが多いが、バレニンは少ない。マグロやカツオはカルノシンが少なく、アンセリンが多いもののバレニンはそもそもない。死ぬまで泳ぎ続け、時速100km近い速さでも泳げるのは、筋肉中のアンセリンだと言われている。
カルノシン、アンセリン、バレニンの3つがバランスよく含まれているのが肉の優等生であるクジラ肉と言える。
肉世界の優等生がクジラ肉
優等生と言ったのは理由がある。わかりやすいように、クジラ(赤肉)と、うなぎ、牛肉、豚肉、馬肉、鶏(むね肉)、鶏(ささ身)、カツオ、マグロ(赤身)を比較した(データは文部科学省『五訂増補 日本食品標準成分表』から)。
クジラのカロリーは、牛肉の約1/5、豚肉の約1/3で、鶏(ささ身)とほぼ同じという低カロリー。たんぱく質の含有量も優れていて、僅差だがトップのマグロやカツオの次に多く、牛肉の約2.5倍も高たんぱく。脂質はクジラがダントツに少なく、鶏(ささ身)の約半分と驚異的。鉄分の多さは馬肉の次に多く、コレステロールは鶏(ささ身)の約半分だ。
捕鯨禁止だけどクジラ肉を食べることはできるの?
1982年に13種類の大型鯨類の商業捕鯨は禁止になったものの、小型のクジラは対象外で、しかも調査捕鯨もありクジラ肉は意外と多く流通している。クジラ肉は部位や調理法によっても、さまざまな食感や味が楽しめるのも魅力のひとつ。
加熱によるバレニンの損失は少ないが、刺身なら100%バレニンの成分を摂取できる。またクジラの皮は、DHAやEPAといったオメガ3脂肪酸を豊富に含み、さらに血管の修復作用がEPAの10倍も効果があると言われる、DPAも注目されている。
おいしいだけじゃなく、疲労回復やダイエットや筋トレ、さらに生活習慣病の予防も期待できるクジラ肉。機会があれば試してみてはいかがだろうか?
鈴木 博之