投信1編集部による本記事の注目点

  •  電気自動車(EV)の航続距離延長に向けた大容量化、高い安全性の確保、そして急速充電対応などに向けて次世代蓄電池の開発が進んでいますが、その最有力候補が全固体電池です。
  •  次世代蓄電池としては、全固体電池のほか、リチウム空気電池、リチウム銅電池、マグネシウム電池、ナトリウムイオン電池、亜鉛空気電池などが候補として挙がっています。
  •  全固体電池は、既存の可燃性の電解液(液体電解質)を不燃性の固体材料にして正極材と負極材を含めた部材すべてを固体とするもので、発火事故となる可能性が低いなど、安全性の高さが注目されています。

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電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)といった環境対応車の需要が高まるなか、ひときわ注目を集めているのが蓄電池だ。現在、車載用はリチウムイオン電池(LiB)が中心だが、EVの航続距離延長に向けた大容量化、高い安全性の確保、そして急速充電対応などに向けて次世代蓄電池の開発が進んでいる。その最有力候補が全固体電池だ。最近ではトヨタ自動車が2020年代前半にも実用化すると発表している。他方、NEDOが支援する次世代蓄電池プロジェクトでも成果が見え始めている。次世代蓄電池の動向についてレポートする。

全固体電池、20年代前半に実用化

次世代蓄電池としては、全固体電池を筆頭にリチウム空気電池、リチウム銅電池、マグネシウム電池、ナトリウムイオン電池、亜鉛空気電池などが候補として挙がっている。全固体電池は、既存の可燃性の電解液(液体電解質)を不燃性の固体材料にして正極材と負極材を含めた部材すべてを固体とするもの。発火事故となる可能性が低いなど、安全性が高い。また、EVに搭載した場合に航続距離の延長と充電時間の短縮が可能となる。

国内ではトヨタと東京工業大学の研究グループが研究開発を実施している。トヨタは「東京モーターショー2017」で記者会見を開催し、20年代前半にも全固体電池を実用化するとアナウンスした。現在、東富士研究所(静岡県裾野市)を中心に200人体制で研究開発が進められている。海外ではEVベンチャーのフィスカーが注目を集めている。同社はスポーツカータイプのEV「Emotion」を開発し、23年にも量産を開始する計画だ。大きな特徴が全固体電池を搭載し、1回の充電で約500kmの航続距離を実現する点だ。また、わずか数分程度で充電が完了するという。

全固体電池の開発で大きなポイントとなるのが固体電解質だ。材料としては硫化物系と酸化物系が提案されているが、イオン伝導率が高いことから硫化物系が特に期待されている。上述のトヨタと東工大も硫化物系を採用しているとみられる。また、三井金属鉱業は、高イオン伝導かつ電気化学的に安定する硫化物系固体電解質を開発している。同電解質と正・負極材を組み合わせて全固体電池を試作し、既存のLiB以上の高いエネルギー密度を実現したと発表している。20年以降の実用化を目指している。一方、酸化物系ではオハラが「リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス(Lithium Ion Conducting Glass Ceramics:LICGC)」を開発している。16年にはLICGCを採用した全固体電池を試作し、マイナス30℃という低温下においても駆動することを実証した。

マグネシウム電池などにも期待

マグネシウム電池は既存LiBの2倍、リチウム空気電池は同10倍のエネルギー密度を実現すると期待されている。また、マグネシウム電池やナトリウムイオン電池は資源的に豊富なマグネシウムやナトリウムを使うため、安定調達および低コスト化に向いているとされる。LiB材料のリチウム、コバルト、ニッケルはいずれもレアメタルであり、世界的に産出国が限られる。リチウムは南米のチリやボリビアなどから輸入しているが、今後の需要の増加に加え政情悪化の可能性もあり、将来的に安定して確保できる保証はない。

マグネシウム電池は国内外の数々の企業・大学で研究開発が進められている。例えば、東京理科大学の井手本康教授らの研究グループは、マグネシウム電池用正極材を開発している。具体的には、酸化物系の岩塩型とスピネル型の2種類で、いずれも従来のLiB正極材と同等以上の容量を達成している。また、岩塩型正極材、負極材、電解液などを組み合わせて蓄電池を試作し、エネルギー密度1175Wh/kgを実現した。これは層状岩塩型正極材を採用したLiBの2倍以上に相当する。

リチウム空気電池は「究極の蓄電池」とも言われ、世界的に研究開発が進められている。最近では物質・材料研究機構の研究グループが同電池のエネルギー効率と寿命を大幅に改善する新たな電解液を開発している。同電池は放電電圧に比べて充電電圧が高いためエネルギー効率が低く、また、リチウム金属負極の寿命が短いという大きな課題がある。

新たな電解液により、充電時に正極にかかる過剰な電圧(過電圧)が、従来の1.6V以上から半分以下の約0.6Vとなり、エネルギー効率が60%程度から77%まで大きく改善。また、寿命低下の一因とされていたリチウム金属の樹枝状の析出も防止することで、従来20回以下であった充放電サイクルを50回以上まで向上させた。なお、同研究グループはリチウム空気電池の空気極材料にカーボンナノチューブを採用し、従来型LiBの15倍に相当する高い蓄電容量を達成している。

リザーバ型に注目

NEDOがまとめた「二次電池技術開発ロードマップ2013」では、次世代蓄電池開発にあたっての性能の数値目標が示されている。具体的には、20年ごろに重量エネルギー密度250Wh/kg、出力密度1500W/kg、コスト約2万円以下/kWh、30年以降に重量エネルギー密度700Wh/kg、出力密度1500W/kg、コスト約5000円/kWhとしている。なお、重量エネルギー密度700Wh/kgは現在の約7倍となる。

この目標達成に向けて、次世代蓄電池開発プロジェクトがNEDO主導で進められている。その核となるのが「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING II)」(16~20年度)だ。これは09~15年度に実施した「RISING」に続くもの。RISINGでは蓄電池の反応メカニズムの解明・解析技術の開発、次世代LiBに結びつく材料技術の革新などを実施し、亜鉛空気電池、ナノ界面制御電池、硫化物電池の3タイプの革新型蓄電池を有望な技術として特定した。いずれもLiBのようなインサーション型ではなく、リザーバ型である点が特徴だ。インサーション型では高エネルギー密度化に限界があると言われている。最終年度には重量エネルギー密度300Wh/kgを検証し、500Wh/kgの見通しを得た。

RISING IIでは、同成果を基にエネルギー密度のみならず、耐久性や安全性など、車載用蓄電池として必要とされる性能を両立させる革新型蓄電池の共通基盤技術の開発に取り組む。テーマは、(1)高度解析技術開発と(2)革新型蓄電池開発。(1)ではSPring-8の放射光X線回折、J-PARCの中性子回折、NMR、精密充放電、電子顕微鏡、計算科学などの複数の解析技術を相補的に組み合わせて、電池内部の様々な現象をより高速で微細に把握。課題抽出とその解決を図ることにより、高性能化や高耐久化を実現する新規の解析技術を開発する。

(2)では、RISINGで3タイプの電池を対象とし、(1)で開発する技術を用いて課題解決を図りながら、エネルギー密度のみならず、耐久性、安全性などについても車載化に課題がないことを実セル(容量5Ah級)を試作して検証していく。スケジュールとしては、20年代前半までに革新型蓄電池の有望な電池タイプ・構成材料を絞り込んでセルの基本仕様を固め、電池モジュール・システムを開発していく。

委託先は、京都大学、産業技術総合研究所、茨城大学、神奈川大学、関西大学、九州大学、東京工業大学、東京農工大学、東北大学、名古屋工業大学、ソニー、トヨタ自動車、豊田中央研究所、日産自動車、パナソニック、日立化成、日立製作所、マクセル、本田技術研究所、三菱自動車工業を含む30者。研究開発費は5年間で150億~180億円を予定している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也

投信1編集部からのコメント

全固体電池は、実は10年近く前にも話題になっていました。その際、トヨタは「佐吉電池」を生み出そうとするべく、亜鉛空気電池などの研究に力を入れていた印象がありますが、それから10年近くの研究開発を経て現在の状況になっています。

当記事で触れられているように、次世代電池として期待できるものが様々あるとはいえ、リチウムイオン電池のように量産の歴史はなく、またエコシステムの構築も当然ながらこれからというところです。技術は理想的でも生産ラインでは歩留まりが低いというのは電池に限らずデバイス領域ではよくある話なので、そうした量産の現場にも適した次世代電池が何になるかに注目したいと思います。

電子デバイス産業新聞×投信1編集部

電子デバイス産業新聞