「ドーミーイン」を運営するのは?
ビジネスホテルは、仕事での出張に限らず、観光などでも多くの人が利用しています。なかでもアパホテル、東横イン、スーパーホテルなど、無駄な経費を省き、比較的安価な宿泊料を提供するエコノミーホテルは、全国の多くの都市に進出し、急成長している印象があるのではないでしょうか。
ただし、全てのホテルが上場しているわけではないため、その姿を正確には知ることができません。そこで今回は、共立メンテナンス(9616)という東証1部上場企業が運営しているドーミーインを通して、その実態や今後について考えてみたいと思います。
ドーミーインの特色は夜鳴きそばと大浴場
ドーミーインは、「我が家のようなくつろぎの空間と心震える旅の時間をお届けする」というコンセプトで全国に72か所(2017年9月1日時点)の施設を展開しています。
“寝るだけの場所”というビジネスホテルに、“くつろぎ”という付加価値を加えることで差別化を図っているというわけです。
具体的には、無料で利用できるサウナ付きの大浴場が大半のホテルに併設されており、その多くが天然温泉であることや、夜鳴きそばと呼ばれるラーメンが午後9時半ごろから無料で提供されることなどが特色となっています。
ちなみに、夜鳴きそばは鳥と豚をベースとした醤油味のラーメンです。スタッフがどんぶりによそって提供されるため、カップラーメンよりも充足感があることや、寝る前に小腹が満たされ快眠できるなどの理由で人気を集めています。
共立メンテナンスとはどのような会社か
ドーミーインを運営する共立メンテナンスは、1979年に創業者で現取締役会長である石塚晴久氏により給食受託事業を手掛ける企業として創業されました。また、1980年に学生寮事業、1985年には社員寮事業へと業容を拡大しています。
その後、1993年にはビジネスホテル「ドーミーイン」およびリゾートホテル事業を開始し、1999年に東証2部に上場、2001年9月に東証1部に指定替えとなっています。
2017年3月期の売上高は1,358億円。このうちホテル事業は604億円で、ドーミーイン事業が323億円、リゾートホテル事業が280億円となっています。
一方、営業利益は118億円で、うちホテル事業は69億円となっており、ドーミーイン事業が46.6億円、リゾートホテル事業が22.7億円です。
このように、ドーミーイン事業は、売上では全社の約24%、営業利益では約39%を占める同社の主力事業となっています。また、営業利益率は14.4%と比較的高い採算性を確保しています。
採算確保のカギは、稼動率と客室単価の上昇
宿泊料がそれほど高くはないビジネスホテルにも関わらず、二桁の営業利益率を上げている理由は、地代などの賃借料や人件費などの固定費、新規出店コストをカバーするだけの売上の伸びを確保できているためです。
少し専門的な話になりますが、ホテル事業は典型的な「固定費ビジネス」と言われています。その理由は、土地代や施設のリース料、設備投資に伴う減価償却費などの固定費負担が重い一方で、シーツやタオルのクリ-ニング代、アメニティグッズなどの補充代、部屋の水道光熱費などの変動費は比較的小さいためです。
また、このようなビジネスでは、客室の稼働率を高めることや客室単価を上昇させることのどちらか、あるいは両方により売上高を伸ばし、固定費をカバーすることが極めて重要になります。一方で、固定費を上回る売上を確保すると、変動費が少ないために利益が飛躍的に伸びるという傾向があります。
このため、同社では「RevPAR(Revenue Per Available Room:稼働率×客室単価)」と呼ばれる指標で、ホテル事業の収益管理を行い、稼働率と客室単価アップへの取り組みを継続的に行っています。
なお、直近の2018年3月期上期決算では、ビジネスホテルの既存事業の稼働率は前年同期比+1.6%ポイント上昇(89.0%→90.6%)、客室単価は約4%上昇(10.7千円→11.1千円)となり、この結果、RevPARは約6%上昇(9.5千円→10.1千円)となっています。
また、高稼働率の背景としては、大阪、東京などの大都市圏での好調(例:渋谷100%、浅草96%、京都駅前99%、梅田96%、名古屋96%など)、客室単価上昇は海外からの家族旅行者が多かったことなどが背景にありました。
まとめ
下図のように、10年前と比べるとドーミーイン事業の売上高は約3.7倍、営業利益は約5.5倍に拡大しており、海外からのインバウンドを含め、顧客のニーズを着実に掴むことやRevPARの上昇を重視する採算管理により、着実に成長してきたことが読み取れます。
また同社は、ドーミーインの客室数を2017年3月期の1万室から2022年3月期には1万9,000室に拡大すると中期計画で示しており、今後も積極投資により成長を目指す考えです。
今後も、長年の実績により蓄積されたホテル事業のノウハウを活かしながら安定成長を確保できるか、大いに注目していきたいと思います。
LIMO編集部