来月で就任から1年を迎える米国のドナルド・トランプ大統領。就任前の同氏に対して、最後にロングインタビューを行ったジャーナリスト、マイケル・ダントニオ氏がまとめた書籍『熱狂の王 ドナルド・トランプ』から、トランプ大統領の本質に迫ります。
大統領選への立候補のとき、トランプの出馬表明が多くのコメディアンのネタになる一方、メキシコと移民に関する彼の発言は、この問題に理解ある人々にとって不安の種となった。
現実には、不法移民はそうでない人たちよりも犯罪率が低く、むしろメキシコ系アメリカ人は自分たちを犯罪者と見なす者たちからの暴力に苦しんできた。20世紀初期には、多くのメキシコ系アメリカ人がリンチに遭い、1950年代から60年代にかけて、政府当局は定期的にメキシコ系アメリカ人居住地区を一斉捜査し、彼らを不法入国者として大量に逮捕した。
懸念からビジネスパートナーたちも動いた
このような歴史から、ラテン系指導者たちは、トランプの発言はあまりに危険で扇動的であると見なしている。
トランプのビジネスパートナーもトランプの発言に懸念を抱いたが、それは政治的というよりは実利的なものだった。トランプの辛辣な言葉によって、アメリカのマイノリティーで最大の、数百万もの人口を占めるラテン系の人々という消費者を逃してしまう危険性があるのだ。
このことを考慮して、NBCテレビの幹部は、トランプがホストを務めていた代表的な番組『アプレンティス』への彼の出演を取りやめ、スペイン語のテレビ・ネットワークであるユニヴィジョンは、トランプの主催するミス・ユニバース大会の放映契約を取り消した。
もともとラテン系の支持が弱かった共和党
次々とビジネスパートナーが去っていく中で、トランプ・ブランドは傷つき、会社の収益も影響を受けた。しかし彼自身は超億万長者であるため、損失に耐えられたのだ。さらに、共和党のジェブ・ブッシュやマルコ・ルビオ、リンジー・グラハムなどを含む党内のライバルから発言を批判されると、「彼らは移民問題に弱腰だ」として一蹴した。
共和党主流派の指導者たちは、もともと民主党支持者の多いラテン系有権者の動向を気にかけていた。実際、2008年と2012年の大統領選で、ラテン系のうち共和党を支持した者はほとんどいなかった。ところがトランプは、「自分なら最終的にラテン系の人々の支持も勝ち取る」と平然と予言する一方、彼の主張に賛同する共和党員からの熱狂的な支持を集めていった。
トランプの自己宣伝と本質は変わらない「自撮り画像」
彼は、現代を生きるわれわれの誇張された姿にすぎない。
ナルシシズムは長らく有害だと思われてきたが、最近になって一部の精神医学者は、そのような考え方を見直すべきだと主張し始めた。精神医学者のピーター・フリードはこう述べた。
「ナルシシズムは病気ではない。それは機能しさえすれば、驚くほどうまくいく進化戦略だ」
この「うまくいく戦略」をトランプほど体現している者がいるだろうか。今日、何億人もの人々がインターネットで自分をさらけだすようになった。フェイスブック、ツイッター、インスタグラム……。それらには無数の人の自撮り画像がアップされている。これはトランプが利益追求のために実践してきた自己宣伝と同じだ。ただ、一般人とトランプが違うところは、彼がそれを最初に、そしてもっと大規模にやったということだ。
トランプは特異な人間ではない
多くの人がサンドイッチを食べる前にその写真を撮ってネットにアップする時代になり、強烈なナルシシズムを持つことが異常とは言い切れないようになった。メディアを通して自我を拡大できるようになった社会において、ナルシシズムはむしろ、「自分はつまらない存在だ」という感覚から逃れるための当たり前の要素なのかもしれない。
ドナルド・トランプは特異な男ではない。彼はむしろ、現代を生きるわれわれの誇張された姿に過ぎない。だが、自身を「特別な存在」であると考えたくてたまらない彼にしたら、この結論を不快に思う可能性が高い。それは、われわれにとっても同じである。
(マイケル・ダントニオ『熱狂の王 ドナルド・トランプ』をもとに編集)
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