来月で就任から1年を迎える米国のドナルド・トランプ大統領。就任前の同氏に対して、最後にロングインタビューを行ったのが、ピューリッツァー賞受賞ジャーナリストでもあるマイケル・ダントニオ氏です。彼がまとめた書籍『熱狂の王 ドナルド・トランプ』から、トランプ大統領の本質に迫ります。
トランプと握手をしたとき、はたして彼は除菌剤に手を伸ばすのだろうか、それともハンカチを使うのだろうかと、私は疑問を抱いた。
潔癖症で有名なこの男がトランプ以外の人物であれば、私も少しは気を使ったかもしれない。だが、暴言と残酷さをほしいままにするトランプに同情することは難しい。私はトランプの手を強く握り、彼がその後、机の陰でこっそりと、高級スーツの裾で手を拭うのを観察した。
なぜ、「嫌いなのに、気になってしまう」のか
何度かの世論調査で、半数以上のアメリカ人がドナルド・トランプを嫌っていることがわかっている。2014年のニューヨークの住民を対象にしたウォール・ストリート・ジャーナルとマリスト大学の世論調査では、61パーセントがトランプに批判的な印象を抱いていた。
インターネット上でも、リベラル派は、富裕層と一般人の格差拡大の問題を訴える際に、その象徴としてトランプの画像を使っている。
それにもかかわらず、多くの人がトランプの出演するテレビ番組を見たり、トランプ・ブランドの商品を買ったりすることによって、彼の富を増やすことに加担している。
「少数でも熱烈な支持者」こそ重要
オバマのことを「頭がおかしい」と言えば、それによって気分を害する人がいる一方、反対に自分に近寄ってくる人もいるということを、トランプはよく知っている。いまや3億人に達するアメリカの人口を考えれば、20パーセントの支持者でもマーケットとしては大きい。彼にとっては、自分を好きな人がそれだけいれば十分だ。
これは、FOXニュースが番組を編成するときに、どれほどの数の視聴者をターゲットとするのか計算する手法と同じである。膨大な選択肢がある世界では、比較的少数でも熱烈なリピーター(視聴者)を確保するほうが、中途半端な支持を得るより有利なのだ。
トランプにインタビューした際、取材協力者であったマーク・ディアゴスティーニが「本音で語ることは、政治的に損になりませんか?」と尋ねた。
「それはプラスになるね。私が思うに、ポリティカル・コレクトネスというやつには誰もが飽き飽きしている。『太陽は昇る、太陽は美しい』とか、あたり前のことを言う人間にうんざりしているのさ」
結局はみんな金持ちになりたがっている
もう一つ、トランプが理解していることがある。「アメリカ人は、この国の経済の仕組みが金持ちに有利にできているのではないかと疑っていたとしても、結局はみんな金持ちになりたがっている」ということだ。
彼が有名になった1978年は、それまでの平均賃金の伸びがストップし、それとともに長者番付に名を連ねる人々の所得は大きく増大した時期にあたる。同じころ、マスコミは富や名声への欲望をあおり立てるような、有名人のゴシップで持ちきりだった。
世間がそうしたスキャンダリズムの供宴にいそしんでいたころ、トランプの顔は金で買えるあらゆる欲望を象徴するものとなった。そしてトランプの本当の生活や本当の考え方は、彼が放つ大言壮語の陰にかすんでしまった。だから、トランプの「本当の姿」を知ろうと思っても、たいていはうまくいかない。
「絶え間ない注目」を求めるトランプ
近年のナルシシズムに関する書籍の多くは、クリストファー・ラッシュの画期的な著作『ナルシシズムの時代(Culture of Narcissism)』(ナツメ社)の分析を受け継いでいる。
ラッシュの指摘によれば、アイデンティティの希薄な若者たちは、自己肯定のために、絶え間ない注目や物質的な快適さ、刺激的な体験を求めるようになる。トランプは、ラッシュが憂慮したことを最も生き生きと体現している人物と言える。
また、ある研究によれば、アメリカ人は他の国の人々より個人主義を重んじ、常に自分自身に注目を引きつけたがるという。大きな成功を求めてリスクを取る者は、たとえ失敗したとしても尊敬され、富や健康や寿命の大きな不平等を容認してでも、成功者になれるチャンスのある社会を好む。
またアメリカ人は、外国に行くと下品に思われるぐらいお国自慢や自己宣伝をしがちだ。トランプは、誰から批判され、嫌われようが、自分はアメリカの理想を背負って果敢に挑戦しているのだと胸を張るだろう。
あれは演技じゃありません
トランプは、アメリカ社会の移り変わりにぴたりと歩調を合わせて生きてきた。その一貫した生き方を見てきたドナルド・ジュニアは、「トランプが人格を装っている」という見方を否定し、こう強調する。
「あれは演技じゃありません。35年間も毎日、ドナルド・トランプを演じるなんてことはできませんよ。数週間なら可能でも、35年は無理です」
(マイケル・ダントニオ『熱狂の王 ドナルド・トランプ』をもとに編集)
クロスメディア・パブリッシング