英国の金融リテラシーも低かった
前回、『日本の金融リテラシーのレベルに驚愕』で日本の金融リテラシーの低さをOECD比較で分析しました。平均63%(注)に対して日本は58%と劣後していることが大きな問題だと指摘しましたが、このコラムでも何かと引き合いに出している英国の水準はといえば63%でした。
注:金融知識(正誤問題5問)、金融行動(4問)、お金に対する考え方(2問)の3つの分野でそれぞれ正答率、正しい行動・考え方を採用した比率の平均
平均的ということですが、点数のばらつきを見ると、知識は比較的高いのですが、行動(長期計画を策定する)や考え方(貯蓄を重視する、その日暮らしを回避する)といった点では、かなり低いことがわかります(詳細は前回記事の金融リテラシー国際比較表を参照)。
実は、英国では2006年に同じような金融リテラシーに関する国内調査が行われました。
Personal Finance Education Group(pfeg)という団体が実施したその調査では、たとえば、貯蓄額が500ポンド(1ポンド=150円で7万5000円)を上回る英国民は10人中6人しかおらず、6人に1人は債務超過、さらに5人に1人は銀行の取引明細書さえも理解できないというかなり厳しい現実を見せつけられました。
そもそも取引明細書が理解できなければ、資産形成についても考えられるはずはなく、つまり英国民の5人に1人、約1,200万人は不測の事態に備えた蓄えがないと懸念されたのです。
教育指針への金融教育の本格導入
そこで英国の議会が動きだしました。学校での教育カリキュラムに金融教育(Financial Literacy Education)を組み込むために、pfegが中心となって200人の議員が名を連ねる超党派グループAll Party Parliamentary Group(APPG)が2011年1月に立ち上げられたのです。
英国では、1万人以上の署名を集めると政府は何らかの対応を求められるのですが、金融教育に関しては、実に10万人の署名を集めることができ、その結果、2013年9月に金融教育が4000校ほどある公立のセカンダリー・スクールの教育カリキュラム(National Curriculum)に組み込まれました。2014年9月から実施されています。
pfegの担当者は、「10万人の署名が集まった背景には、お金について家庭で学ぶことも重要だが、学校で学ぶことも重要」との認識が強くあったことを指摘しています。
金融教育が組み込まれたカリキュラムの科目は、公民(Citizenship)、算数、PSHE(Personal, Social, Health and Economics)の3つです。公民と算数は法定科目ですが、PSHEは法定課目ではありませんが、PSHEは教えるべき科目として推奨されているほか、単に金融教育だけではなく企業(Enterprise)についても教える対象としています。
もちろん10歳前後の子どもが対象ですから、基礎的な金融に対する理解を進めることが目的となりますので、それほど難しい問題を教えるというのではありません。次回、われわれが取材した内容を少し紹介させていただきます。
合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史