IPO株や上場株への投資の際には、PER(株価収益率)を始めとする価格を計るための指標=モノサシが存在しています。しかし、仮想通貨を利用した資金調達として注目を集めるICO(Initial Coin Offering、新規仮想通貨公開)では、価格を計るモノサシが現状存在していません。
今回は、ICOにはデジタルトークン(注)の購入者などの参加者にとってどんなリスクがあるのかを考えてみます。
(注)デジタルトークン:代替貨幣のようなもの
ICOには価格のモノサシが存在していない
仮想通貨を利用した新しい形の資金調達として注目を浴びるICOは、資金調達界に革命をもたらしたと言っても過言ではありません。
海外では2億ドルもの資金をICOで調達する事例も見られるなど、ベンチャーキャピタル(VC)による調達やIPO(Initial Public Offering、新規株式公開)に比べると、多額の資金調達を容易に行うことが可能となっています。
ただし、企業側から見て良好な資金調達環境は、デジタルトークンを購入する人にとっても良好と言えるのでしょうか。
そうした観点でICOを見た時、決定的な弱点が存在しています、それはICOの価格を判断するモノサシが存在していないという点です。
価格の判断にはモノサシが必要
ところで、それほど食にこだわりのない筆者には、ランチ代は高くても900円を超えないという不文律があります。
このように、価格の判断には何かしらのモノサシが必要です。IPOの場合はPER(株価収益率)が利用されますし、上場会社の場合はPERに加えPBR(株価純資産倍率)も利用されます。
M&Aの場合はDCF法(Discount Cash Flow)で企業価値を算出する等、株の世界では価格を判断するためのモノサシが複数存在しています。
しかしながらICOの場合、RERやPBR等に該当するものがないのです。ICO先進国の米国ではICOの価値を計るモノサシを考案する模索も始まっているようですが、現状ではそうした指標は存在していません。
モノサシのない価格形成の怖さ
「スタートアップのベンチャー企業で時価総額100億円」と聞くと、ベンチャーキャピタルなどの投資会社の観点からは、よほどの事情がない限り事業計画書を見ずともお引き取りを願う価格です。
一方、現在のICOにおけるデジタルトークンの発行価格等の条件は、発行会社で決められています。つまり、価格や発行総額は調達側の“言い値”の状態とも言えます(さすがにブームが収束し、希望調達額に達しないケースも増えていますが)。
単に需給や必要金額のみに基づいた価格算定は、上昇相場の時はいいのですが下落する時は一気に下落します。そうなると下がったところを長期保有覚悟で拾いに行く投資家も出現しにくくなります。
ITバブル期に天井を付けた銘柄群の、その後の株価の顛末を見れば、単なる需給に基づく価格形成の恐ろしさは実感できます。価値を計るモノサシを持たないICOは、デジタルトークンの価格形成について、ITバブルを超えるリスクを有していると言えるかもしれません。
資金調達後に計画通り事業が進捗するケースが少ないICO案件
ICOでの資金調達企業は、ホワイトペーパーと呼ばれる事業計画書に基づいて資金調達を行います。しかし、ICOによる資金調達企業の多くは、当初の計画通りに事業が進捗していないとの調査結果なども目にするようになりました。
事業計画通りに事業が進捗しないケースは企業の現場では起こりうるものです。ただし、ICOの場合は企業側の言い値で資金調達をしているため、他の資金調達方法と比べると、資金を調達した企業は、より成果が求められるというケースもあるのではないでしょうか。
ICOでの資金調達に成功した企業が、事業的にも成功を収めていくことができるのかどうかは、今後仮想通貨投資家を中心に、継続的に注目すべき点だと言えそうです。
まとめ
先述のランチの例が妥当かどうかはともかく、人は購買行動を起こす際に何かしらのモノサシを持つのが通常です。その点、価格の高低を計る適切なモノサシが存在していないICOを見ていると、事業成功とは別にリスクがあると感じずにはいられません。
最近は調達目標額に届かないケースも出ており、ICOに一時の勢いはなくなってるようです。中国ではICOは全面禁止されました。それでも、世界的にはICOは新しい資金調達方法として定着しつつあります。
今後は、ICOで発行された多くのトークンの価格の行方、そしてICOで資金調達した企業が計画通りにビジネスを成功させることができるのか、注目を続けたいと思います。
石井 僚一