日本ハム大谷翔平のMLB移籍交渉が本格化
北海道日本ハムファイターズの大谷翔平(敬称略、以下同)の米国メジャーリーグ(MLB)移籍交渉が大詰めを迎えようとしています。早ければ来週中、遅くても年内には大谷の新たな活躍の場が決まることでしょう。
いわゆる“二刀流”でプロ野球界のスーパースターとなった大谷に関する説明は省略しますが、日本のプロ野球(NPB)で活躍した後、MLBへの移籍を志す選手は後を絶ちません。やはり、最高峰と言われるMLBで一度はプレーしたいというのがアスリートの本望なのでしょうか。
NPBからMLBへ移籍する方法
さて、NPBに在籍する選手がMLBへ移籍するには、1)自由契約となって交渉する、2)海外FA権を取得して交渉する、3)入札制度(ポスティング)を適用して交渉する、の3つの手段があります。
しかし、1)の自由契約はその多くが“戦力外”となる場合であり、そのような選手にMLBが興味を示すケースは極めて稀です。したがって、事実上は残り2つの方法となります。
このうち、2)の海外FA権を取得するには、1軍選手の通算登録期間が9年必要になります。これは結構高いハードルである上、ようやく海外FA権を取得した時に選手としてのピークを過ぎていることも珍しくありません。そのため、3)のポスティングを活用したい選手が多いのが実情です。
なお、ポスティングを利用するためには、NPBの所属球団の許可が必要です。今回の大谷もこのポスティングを利用した移籍となります。
ポスティングではNPB所属球団に「譲渡金」が支払われる
ポスティングでは、MLBの移籍先球団からNPB所属球団に「譲渡金」が支払われます。これが海外FA権による移籍との大きな違いであり、ポスティングを容認する所属球団(今回なら日本ハム)にも“損得勘定”が働くのではないかと言われているのも事実です。
問題はその譲渡金の金額です。現在は上限が2,000万ドルと定められていますが、2012年までは制限がありませんでした。一番高い譲渡金を入札したMLB球団が優先交渉権を獲得したのです。
2011年に移籍したダルビッシュの譲渡金は5,170万ドル!
ちなみに、2012年までの旧制度のポスティングでMLB移籍を果たした主な選手の譲渡金は、
- ダルビッシュ有(2011年、日本ハム):5,170万ドル
- 松坂大輔(2006年、西武):5,111万ドル
- 井川慶(2006年、阪神):2,600万ドル
- 岩隈久志(2010年、楽天):1910万ドル
- イチロー(2000年、オリックス):1,312万ドル
となっています。
注:金額は一部推定。所属球団は移籍当時。
現行規約では譲渡金の上限は2,000万ドル
なお、改定された現行ポスティングでは、田中将大(2013年、楽天)、前田健太(2015年、広島)がいずれも上限の2,000万ドルでした。大谷翔平も2,000万ドルになるのは間違いありません。
譲渡金に上限が設けられたのは、入札金額の高騰が顕著になったため、MLBからの要請が強まったことが最大要因と言われていますが、確かにそうでしょう。選手獲得に際してマネーゲームを敬遠するのは、MLBでも同じのようです。
大谷の譲渡金2,000万ドルは安過ぎるのか?
それにしても、同じ日本ハムからダルビッシュがポスティングでMLBに移籍した時、その譲渡金は約40億円(当時の換算レート約78円/ドル)に上りました。これは、親会社である日本ハムの2012年3月期業績を押し上げることになり、東京証券取引所にファイリング(適時情報開示)が提出されたほどです。
“たら・れば”の話ですが、大谷の譲渡金がダルビッシュと同じ5,170万ドルの場合、現在の為替レート112円/ドルで換算すれば58億円になります。
規約だから仕方ないと言えばそれまでですが、大谷を“わずか”2,000万ドル(現在の為替レート112円/ドル換算で約22億円)で譲渡する日本ハムに不満はないのでしょうか?
十分なリターンを得た「大谷翔平」への投資
2,000万ドルという金額も含めて、投資とリターンという観点から見れば、十分に満足できる水準です。日本ハムが6年間に大谷へ支払った年俸は約8億円(契約金含む)と推測されます。また、この6年間で、日本ハム主催試合の入場者数は+23万人増加しました(2012年186万人から2017年209万人へ)。
もちろん、大谷一人だけによるものではありませんが、“二刀流”で出場試合が多いことを勘案すれば、相応に高い貢献があったと見ていいでしょう。
さらに、大谷が活躍した期間に獲得した様々な分配金(2016年の日本一を含む)、グッズの売上収益、スポンサー料の増加などを加味すれば、球団にもたらされたキャッシュフローは想像以上に大きいはずです。譲渡金2,000万ドル(約22億円)でも満足できると言えるのではないでしょうか。
既に新たな大型投資は始まっている。それは…
それでも、“数十年に一人”と称されるスーパースターの譲渡金が2,000万ドルは安過ぎる感が否めません。しかし、11月10日にポスティング容認の記者会見を行った球団幹部は、名残惜しさをかみしめながらも時折、晴れやかな表情も見せていました。
大谷翔平の「夢」を力強く後押ししたいのでしょうか、それとも、6年前の入団時からある種の約束のようなものがあったのでしょうか。
そういえば、日本ハムは今年のドラフト会議では高校球界屈指のスラッガーである清宮幸太郎を獲得しました。打撃は大谷以上という評価もある逸材であり、将来のスーパースター候補です。
プロ球団経営というビジネスの観点からは、日本ハムファイターズは「大谷翔平」という大きな投資に成功し、次の新たな投資「清宮幸太郎」に着手したと言えるのかもしれません。
LIMO編集部