もはや崖っぷち? ゼロ成長だと縮んでしまう地銀ビジネスの宿命

金利ダンピング競争のジレンマ

金融庁は10月に発表した「金融レポート」の中で、すでに過半の地域銀行で本業が赤字に転落していると指摘しています。その背景を久留米大学の塚崎公義教授が解説します。

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ゼロ金利、ゼロ成長が続いています。普通の企業にとっては、ゼロ成長というのは「昨年と同じ」なのですが、地銀にとっては違うのです。地銀がゼロ金利、ゼロ成長で苦悩している理由について考えてみましょう。

メガバンクは、世界中で様々な取引をしていますが、地銀のビジネスは限られています。低い金利で預金を集めて高い金利で貸出をして、その差額(利ざや)で儲けているわけです。それ以外にも、送金手数料、投信販売手数料、等々はありますが、本業は圧倒的に預金と貸出です。そこで今回は、地銀についての考察となっているわけです。

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ゼロ金利だと、預金部門の収支は大幅な赤字

銀行によるでしょうが、預金部門と貸出部門の収益を計算する場合の手段として、「預金部門が集めた金を、経理部に市場金利で貸出す」「貸出部門が使う資金は経理部から市場金利で借りる」という社内取引を行なっている(行なったことにしている)ケースが多いと思われます。

預金が貸出より多ければ経理部が市場に貸し出して金利を得(今だとマイナス金利を得るわけですが)、貸出が預金より多ければ経理部が不足分を市場から借りてきて市場に金利を支払う、というわけです。ちなみに、市場金利というのは、銀行間で資金を貸し借りする際の金利や、国債を購入した場合に得られる利回り等のことです。

通常時には、預金金利は市場金利よりも大幅に低くなっています。定期預金はともかく、当座預金や普通預金は、金利が非常に低いですから。そこで、預金部門は市場金利と預金金利の差で人件費などの諸コストを賄うことができるのです。

しかし、市場金利がゼロ(あるいはマイナス)だと、預金を集めて経理部に貸しても収入は得られず、諸コスト分がそのまま預金部門の赤字になってしまいます。これは辛いことです。早期に日本経済がゼロ成長を脱して金融政策が正常化し、市場金利がプラスになることを銀行は待ち望んでいるはずです。

さらに深刻なのは、ゼロ成長だと融資残高が減って行くこと

ゼロ成長だと、普通の企業は昨年と同じだけ生産し、昨年と同じだけ利益を稼ぎ、昨年と同じだけ配当をします。各社ごとにタイミングのズレはありますが、日本経済全体としてみれば、設備投資額は減価償却額と同じはずです。使われている設備の規模が一定だからです。

そこで問題なのは、利益の中で配当されなかった部分が、銀行借り入れの返済に使われる、ということです。企業にとってみれば、「生産量等はゼロ成長で前年どおり」であっても、借入は着実に減って行くのです。これを銀行からみると、ゼロ成長だと貸出残高が着実に減って行くわけです。

代わりに増えて行くのは、国の借金である国債(および、国債を日銀に売却したことで得られる日銀当座預金の残高)です。どちらもゼロまたはマイナス金利なので、貸出が国債等に振り替わるのは、銀行にとって大きな痛手です。

金利ダンピング競争で皆が疲弊する

銀行は、貸出残高を維持するために、金利を引き下げてライバルから顧客を奪おうとします。銀行の貸出は、自動車等と異なり、品質に差がないため、わずかな金利差でもライバルから顧客が奪えるのです。もちろん、「過去からの銀行と借り手の長い付き合い」がありますから、田舎へ行けば、ウエットな関係で取引銀行を変更しない客も多いのでしょうが、それでも影響は限定的でしょう。

そこで銀行は、利下げでライバルから客を奪おうとしますが、ライバルも防御策として利下げをするでしょう。もしかすると、こちらよりも低い金利を提示して、こちらの顧客を奪っていくかも知れません。こうして、利下げ競争が繰り広げられることになるのです。

問題は、マクロ的な資金需要(日本全国の企業の借入金額)は、金利が少しくらい下がっても、それほど増えないということです。「銀行の金利が0.5%下がったから、借金をして工場を建てよう」という会社は、それほど多くないからです。

銀行にとっては、貸出金利を0.5%下げるというのは、非常に大変なことです。何と言っても、現在の貸出金利の平均が1%を切っているのですから。「貸出金利を半分にしても貸出残高が増えない」ということでは、日本中の銀行が共倒れになってしまうかも知れません。

現在の金利も、将来の貸し倒れリスクが織り込めていない

現在の、1%という金利でも、実は大きな問題なのです。銀行の貸出金利は、銀行のコスト(人件費、預金利息等)に加えて、将来の貸し倒れリスクを上乗せして決められるべきものです。将来、不況になって回収できない貸出金が増えたとしても、「その分は、皆から高い金利をもらっているので、大丈夫」と言えなければならないのです。

しかし、金利引き下げの過当競争が深刻化すると、「昨年の貸倒率は低かったから、上乗せ分は小幅でよかろう」と考える銀行が出てきます。それ自体は愚かな判断です。今はたまたま景気が良いので貸倒率が低いだけで、今後の不況期にも貸倒率が低いと考えるわけにはいかないからです。

しかし、ライバルが愚かな判断で自行の顧客を奪っていくのを黙って見ているわけにもいかない、というのが悩ましいところなのです。「愚かな判断を笑って何もしなければ、ライバルは将来損をすることになるが、自行は直ちに大損する(多くの顧客を失う)」という状況下では、自行も愚かな判断(利下げ)に追随せざるを得ないのです。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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