2. こども家庭庁が導入を検討している日本版「DBS」とは
DBSは、英国内務省が管轄する「Disclosure and Barring Service(ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス)」の略称であり、和訳すると「前歴開示および前歴者就業制限機構」となる。
英国の制度は、個人の犯罪履歴などのデータベースを管理、さまざまな職業に就く際に必要な証明書を出す仕組みであり、対象範囲および対象者が広い。
こども家庭庁の導入を検討している日本版「DBS」は、職業を「子どもに関わる職業」、犯罪歴を「性犯罪歴等」に限定している。
2020年に、ベビーシッター仲介サイトの登録者が相次いで性犯罪事件にて逮捕され(裁判にて有罪判決)、子育て支援団体や保護者が政府に日本版「DBS」創設を要望していた(こちらを参照)。
3. こども家庭庁が導入を検討している日本版「DBS」の内容
当該会議(第5回)で取りまとめられた報告書案について見ていく。
正式に決定したわけではなく、2023年9月現在においては、まだ「報告書」の「案」でしかないので、その点留意いただきたい。
こども家庭庁が導入を検討している日本版「DBS」の対象
【対象事業者の範囲】
確認を義務付けるのは、学校・保育所とした。
一方で、学習塾や放課後児童クラブ(学童保育)は任意で各所で判断することとした。
相違が生じたのは、「公的な監督の仕組み」の有無による。
性犯罪歴等の情報を「高度のプライバシーに係る情報」と定義し、当該情報を安全かつ適切に管理することが、実効的に担保されている事業者に限定されたことになる。
報告書案の作成前より、既に反対意見が出ており、さらなる議論が必要であろう。
【確認の対象とする性犯罪歴等の範囲】
不同意わいせつ罪(刑法第176条)など性犯罪の前科を、確認の対象とする性犯罪歴等とした。
すなわち、厳格な手続に基づきその正確性が担保されている、「裁判所による事実認定を経た前科」を対象とした。
一方で、地方自治体の条例違反による懲戒処分は、自治体により基準が異なるため対象に含めるかどうかさらなる検討が必要とした。
なお、盗撮や痴漢などはこれまでは条例にて規定されていた。しかし、盗撮は「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(2023年7月13日施行)、痴漢は不同意わいせつ罪(刑法第 176 条)により規定されることとなった。そのため、確認の対象とする性犯罪歴等に含まれる。
不起訴処分(起訴猶予)については、確認の対象とする性犯罪歴等には含まれないとした。
前述したとおり、「裁判所による事実認定」で判断することから、検察官による不起訴処分は公平な裁判所の事実認定を経ていない上、処分を受けた者がこれに不服を申し立てることができず事実認定の正確性を担保する制度的保障もないことから、対象外としている。