話題沸騰中の量子コンピュータ
最近、よく耳にする言葉に量子コンピュータというものがあります。
直近では、2017年11月20日にNTT、国立情報学研究所、東京大学生産技術研究所、科学技術振興機構、内閣府政策統括官らが、光の量子的な性質を用いた新しい計算機「量子ニューラルネットワーク(QNN)」をクラウド上で体験できるシステムを開発。2017年11月27日より一般公開することを発表し、話題となっています。
量子コンピュータは、スーパーコンピュータをはるかに上回る計算力があるとされ、その力は、同じく今話題のAI(人工知能)への応用や、交通渋滞の解消、医薬品の開発などに役立てられることが大いに期待されています。
そこで今回は、このような新技術に対して、専門家ではない一般の私たちはどのように向き合っていけばよいのか、そのポイントについて以下の4つにまとめてみました。
ビル・ゲイツも理解できなかった量子コンピュータの原理
量子コンピュータは、英語ではquantum computer(クアンタムコンピュータ)と呼ばれ、「量子力学の特徴を生かし、“0”と“1”の両方を重ね合わせた状態をとる“量子ビット”を使って計算する装置」(『量子コンピュータが人工知能を加速する』(東京工業大学 西森秀稔教授、東北大学 大関真之准教授共著、日経BP社)と定義されています。
おそらく多くの人は、現在主流であるパソコンなどのコンピュータとは根本的に原理が異なることはなんとなく理解できても、「量子力学の特徴を生かして」というところでつまずいてしまうと思います。
ただし、ここであまり「量子力学」について深入りする必要はないと思います。というのは、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツですら、2017年9月27日付けのウォール・ストリート・ジャーナルで以下のようにコメントしているからです。
“I know a lot of physics and a lot of math. But the one place where they put up slides and it is hieroglyphics, it’s quantum.”
私は物理や数学について多くのことを知っています。ただし、スライド(マイクロソフトが作成したプレゼン資料)はまるで象形文字のよう。それが量子(コンピュータ)です。
IBMというコンピュータの巨人を相手に、パソコン市場のOSで圧倒的な地位を築き上げてきたマイクロソフトの創業者ですら、量子コンピュータの原理を理解することは容易ではないようです。
このため、原理が理解できないことで気落ちすることなく、その活用の可能性のほうに目を向けていきたいと思います。
処理能力はスパコンの約1億倍
原理は完全には理解できないとしても、知っておくべきことの最大のポイントは、量子コンピュータの処理能力が従来型コンピュータの最速機であるスパコンに比べても約1億倍と、桁違いに速いことです。
このため、これまでは数年単位の時間が必要とされていたゲノム解析や気象予測、暗号化などの計算を、数時間で実現することが可能になると言われています。
計算が速いということは、コンピュータを動かすための電力消費も少なくて済むということになります。このため、量子コンピュータは地球にも優しいコンピュータであるということになります。
一方、これまでは解析が不可能とされてきたビットコインなどの仮想通貨の「秘密鍵」が解読されてしまう可能性も専門家からは指摘されており、他の新技術と同様に、使い方に関しては倫理性が問われる技術でもあると見られています。
量子コンピュータには2種類がある
次に押さえておきたいポイントは、量子コンピュータには「量子ゲート方式」と呼ばれる汎用タイプと、「量子アニーリング方式」と呼ばれ「組み合わせ最適化問題」を解くことを中心に利用されるタイプの2種類があることです。
前者のほうが古くから研究開発が行われており、最近ではIBM、グーグルなどもその研究を強化しています。一方、後者はカナダのベンチャー企業であるD-Wave社が量産機の販売を行っており、商用化という点では一歩リードしています。
株式市場でも注目テーマになりつつある
株式市場は、社会の構造を大きく変える技術や、それによってもたらされるパラダイムシフトについて常に敏感です。このため、量子コンピュータについても、その理解は容易ではないものの、株式投資家にとって重要な注目テーマになりつつあります。
具体的には、D-Wave社の日本への導入で協業を行っているフィックスターズ(3687)、量子コンピュータの開発用測定器を手掛けるエヌエフ回路設計ブロック(6864)、量子コンピュータ用暗号鍵の輸入代理店契約を結んでいるユビキタス(3858)などの銘柄です。
一方、日立(6501)、NEC(6701)、富士通(6702)といった国内大手コンピュータメーカーについては、現時点ではまだ本格的に量子コンピュータ関連銘柄として注目されるには至っていません。とはいえ、これらの企業も長年にわたり関連技術の研究を行っています。また、実用化のためのソフト開発技術基盤は持ち合わせていると推察されます。
このため、今後はこうした大手企業についても、量子コンピュータ関連への取り組みや将来展望について精査していきたいと思います。
和泉 美治