神田の名店「一乃谷」の料理長が腕を振るうクジラ料理
11月7日(火)に都内で「鯨フェス2017」が開催された。主催したのは一般財団法人の日本鯨類研究所で、調査で捕鯨したクジラ肉の各部位の展示や、試食会が行われた。
神田にあるクジラ料理の名店「一乃谷」の料理長による調理実演、それにクジラ肉の希少部位や最高級とされる尾身の刺身、にぎり寿司が無料で食べられるとあって、情報を聞きつけたクジラ肉好きも集まり、会場は賑わっていた。
試食として提供されたクジラ肉は、刺身としては脂ののりがいい「尻尾」、背肉・腹肉である「赤肉」、ほとんどが脂肪分でできている、不思議な触感の「本皮」、噛めば噛むほど味が出てくる「ベーコン」。
寿司としては「本皮」、舌の部分である「さえずり」、あごの付け根部分で脂肪と肉が、子鹿の背中のまだら模様に似ている「鹿の子(かのこ)」。ほかにも「鯨のロースト」「鯨の混ぜソバ」「鯨汁」などが振る舞われた。どれも無料でたくさん食べられるのは、試食の枠を超えたパーティのような感じだった。
捕獲サンプルはイワシクジラ134頭、ミンククジラ43頭
鯨フェス2017と同時に、第一次北西太平洋鯨類科学調査の発表も行われた。登壇した共同販売株式会社の森社長は、「1987年から南極海で、1994年から北西太平洋で鯨類の科学調査を実施しています。北西太平洋での調査捕鯨は今年が1回目で、第一次北西太平洋鯨類科学調査の捕獲サンプルがイワシクジラ134頭、ミンククジラ43頭となり、北西太平洋のミンククジラの捕獲は4年ぶりとなります」と、調査捕鯨を報告した。
展示フロアでは、イワシクジラ34規格、ミンククジラ14規格が並べられ、見たこともない大きな肉の塊が、巨体なクジラならではだということを再認識させられる。ほとんどが冷凍状態で展示されていたが、一部では半解凍の状態で刺身としても提供された。
そもそも捕鯨禁止なのになんでクジラが食べられるの?
ちょっとここで捕鯨禁止にいたるまでの歴史に軽く触れておこう。
まずクジラの資源管理のために、1946年に主要捕鯨国15カ国により、国際捕鯨取締条約が締結され、1948年にIWC(国際捕鯨委員会)が設立された。日本は1951年にIWCに加盟し、商業捕鯨を縮小しつつ、1982年には商業捕鯨モラトリアム(一時停止)により、13種類の大型鯨類の商業捕鯨が禁止になった。
しかし、IWCが管理していない、たとえばツチクジラ、ゴンドウクジラなどは、北海道の網走と函館、宮城県の鮎川、千葉県の和田、映画でも話題になった和歌山県の太地などで捕鯨が行われている。
それと、クジラ肉が販売されるまでの流れを簡単に説明すると、まず水産庁から調査捕鯨の許可が出る。それから一般財団法人の日本鯨類研究所と、共同船舶株式会社が捕鯨し、調査母船である日新丸の船上で冷凍加工し日本に持ち帰り、共同販売株式会社がクジラ肉を加工業者や卸売市場、食品問屋に卸し、料理店やスーパーなどでクジラ肉を販売する。
今回の鯨フェス2017では、南極海と北西太平洋で、鯨類科学調査を実施した副産物として生産したクジラ肉を試食として提供している。
クジラの個体数は増えているとの報告も
捕鯨を反対している団体は、絶滅の危機がある、捕鯨方法が残酷などの理由を掲げている。しかしIWC科学小委員会によると、南極海ではクロミンククジラは少なくとも76万頭以上、オホーツク海、北西太平洋系のミンククジラは2万5000頭以上も存在することを認めている。
また捕鯨方法についても、以前は捕鯨砲から銛(もり)を撃っていたのだが、現在では、クジラが痛みを感じる時間をさらに短縮させるために、銛先に爆薬を搭載した爆発銛を使用している。日本では独自に開発した爆発銛を使用することで、さらに致死時間を短縮し、即死率を高めてきたのだ。
クジラはかなりの大食漢で、クジラの個体数が増えているということは、クジラの餌となる動物プランクトンや魚が大量に消費されるということ。日本鯨類研究所の資料によると、世界中でクジラが年間に餌として食べている海洋生物は約3億~5億トン。それに対して世界中の年間海面漁獲量は約9000万トン。
海洋生物のなかでは食物連鎖の上位に位置するクジラだけに、クジラの個体数が増えるということは、他の海洋生物が減るということに繋がり、漁獲量が年々減っている日本にとっては切実な問題でもある。
日本はクジラを食用だけでなく、骨やヒゲなども加工品として利用しているため、無駄にすることなく「海からの幸」として大切にしてきた。
また、以前は当たり前のように給食でも食べられたクジラ肉は、スーパーでたまに販売しているのを見かける。クジラ肉は低脂肪、低コレステロール、高タンパクなエリート肉ということでも注目されている。次回の鯨フェスは未定だが、ぜひクジラ肉を食べて、クジラについても考えてほしい。
鈴木 博之