25%の政府補助が魅力的な資産形成手段
英国の資産形成に関連する新しい制度設計として、Lifetime ISA(ライフタイムISA)が2017年にスタートしました。これは「退職まで引き出せないという制限がついているものの、その代わりに政府の拠出上乗せ補助がある新しいタイプのISA(個人貯蓄口座)」といわれています。
具体的には、課税後の資金を使って非課税投資ができる点はISAと同じです。ただし、60歳の誕生日まで原則引き出せないという引き出し制限がつけられたことで、通常のISAの機動性はなくなっています。
その代わり、年間の拠出上限4,000ポンド(1ポンド=150円で換算して60万円)に対して、その25%を政府が補助するというインセンティブがついています。
18歳から40歳までの国民が口座を開設でき、50歳まで本人の拠出が認められ、政府による上乗せ拠出も受けられます。また年間拠出上限4,000ポンドは、通常のISAの年間拠出上限額と合算することになっており、2017年のISAの拠出上限はこれを考慮して、年間2万ポンド(同300万円)に引き上げられています。
なお、60歳までの引き出し制限がありますが、口座開設後12カ月を経過すれば、初めて住宅を購入する際にのみ上限45万ポンド(同6750万円)まで引き出すことを認めるようになっており、老後資金と住宅資金の両方またはどちらかをカバーできるように作られています。
ライフタイム ISA はISAとDCの中間
この制度設計をみると、確定拠出年金(DC)とほとんど変わらないもののように見えませんか。
政府の補助金を税金の戻りと考えると、拠出時に課税されないDCといえます。しかも引出時にも課税されない制度になります(この退職後の所得に関する税金は『確定拠出年金で戻ってくる税金は投資へ回そう』で詳しく言及しています)。
ところで、高齢者は「引き出す時に所得税をかけられるDCのような制度よりは、課税後の資金で拠出できるISAのような制度が良い」と考える傾向が強く、英国でもそうした意向を考慮し始めたのかもしれません。
もちろん、政府にとっても何十年も先の税収より、今の税収の方が魅力的でしょうから、ある意味で珍しく消費者と政府の意見が一致する点でもあります。
実際に、この制度が普及するかどうかは少し経過をみる必要がありますが、次々に新しい制度を導入する英国の金融制度、資産形成制度に対する積極性は注目すべき点でしょう。
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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史