東京モーターショー2017で、ヤマハ発動機のプレスブリーフィングで登壇した柳弘之社長は、「私たちの思いを込めた5つの言葉です。発(Innovation)・悦(Excitement)・信(Confidence)・ 魅(Emotion)・結(Ties)を意思として定義し、実現するチャレンジを続けています」と発言。その言葉どおり、魅力的な車両を展示していた。

なかでも前2輪、後1輪のLMW(リーニング・マルチ・ホイール)を採用した、「NIKEN(ナイケン)」は、参考出展車でありながら2018年には市販化される予定だという。「NIKEN」は、二つの剣を意味する造語で、剣豪である宮本武蔵の二刀流になぞらえて名付けられたもの。NIKENの名前にふさわしく、剣術のように足幅を広くとり、しっかりと地に足が吸い付き、それでいて軽快なハンドリングでワインディングを走るムービーも公開された。

LMWテクノロジーはヤマハが開発した独自の機構で、3輪スクーターのTRICITY(トリシティ)を、大島優子をイメージキャラクターにして販売したことでも話題になった。このTRICITYで培ったLMWテクノロジーを、大型3輪バイクに昇華させたのがNIKENなのだ。

インパクトのあるフロント。誰もが振り返って見てしまう。

前2輪バイクは他メーカーからも出ているが、LMWはヤマハ独自

実は3輪バイクはすでに多くが存在し、前2輪+後1輪タイプや、前1輪+後2輪タイプなどさまざまあるのだが、ヤマハのLMWは、通常のバイクと同じようにバイク全体を倒すことができるのが決定的な違い。

前2輪のタイヤは独立して上下に動くため、旋回時に車体を傾けるとタイヤも傾き、通常のバイクと同じように乗れる。TRICITYには乗ったことがあるのだが、想像以上にフロントが軽快でコーナーの安定感も抜群。3輪バイクの、曲がりにくい、体重移動が独特といった特性はまったくなかった。

左右のタイヤが独立して上下に動くのがLMWの特徴。

 

NIKENのフロントフォークは左右に2本あり、外側に配置される。TRICITYでは内側だったのだが、バンク角を通常のバイク同様に深く取るためは、内画にフロントフォークがあると、バイクを傾けたときに干渉してしまう。そのため、スポーツモデルであるNIKENではフロントフォークを外側に配置しているのだ。

また、左右に2本フロントフォークがあるのだが、これは1本だとタイヤが回ってしまうためで、2本あるフォークのうち、1本はフォークとしての機能はなく、タイヤの回り止めだ。そのため、1本にはスプリングが入っていない。

LMWだと、あまり車体を倒しすぎると前輪の片輪が浮いてしまいそうな気もするが、メーカー担当者によると、通常のバイクと同じくらいまで倒せるとのこと。また、TRICITYと同じく、LMWの特徴として自立はしないため、停止時は足で支える必要がある。万が一転倒してバイクを起こすときは、通常のバイクよりは若干重いものの、起こす動作は同じだそうだ。

LMWテクノロジーはバイクだけでなく、シティコミューターや立ち乗り小型モビリティ、さらには電動車いすにも応用ができるため、もっと身近な存在になっていくだろう。

LMWテクノロジーは、“コーナーのヤマハ”らしい機構。

 

フロントフォークが2本あるのは、タイヤがフロントフォークを中心に回ってしまうのを防ぐため。

ベースはMT-09だが、細かい所は変更されている

NIKENは、ベースがMT-09だということで、エンジンは直列3気筒845ccだと思われる。もちろん、フロントが2輪になったことで、強度を持たせるためにもフレームはすべて新設計される。フロントタイヤは15インチを採用(MT-09は17インチ)。

前回の2015年に開催された東京モーターショーでは、ワールドプレミアとなった大型LMWの「MWT-9」を展示し、倉庫内で疾走するムービーも披露された。参考出展車(試作車)だったが、完成度の高さから、2020年までには販売されると予想されていたモデルだった。それがさらに進化を遂げてNIKENになったと考えていいだろう。

パワートレインはMT-09をベースに使っている。

2018年には市販化されるが、問題は駐輪場の整備

NIKENは2018年には市販化するとのアナウンスだったが、国内外どこの市場に投入されるのかはまだノーコメント。国内ではライダーが高年齢化しているため、こういった安定感のある3輪大型バイクは重宝されるだろう。都市部では大型の3輪バイクも置ける駐輪場の整備も進めてもらいたい。

かつての名車であったスズキの「カタナ」のエンブレムが「刀」だったように、NIKENも「二剣」としてほしい。また、MT-09にスポーツツーリングモデルのMT-09 TRACERがあるように、LMWの走破性の高さから、NIKENにオフロードタイヤを履かせたオフロードツーリングモデルも期待したいところ。

あとは、シート位置の高さや、フロント2輪からくるタンク幅の広さから、乗れるライダーの体格が限定されてしまうが、ぜひとも乗ってみたいバイクの1台だ。

鈴木 博之