日本製鉄は市況悪化の影響や減配方針が株価の重しか

一方で、2023年度は市況の悪化が日本製鉄の業績に対する逆風要因になると考えられています。同社の2022年度決算においても粗鋼生産や鋼材需要の低迷に触れられていて、鉄鋼の事業環境が思わしくないことがうかがえます。

同社の2023年業績見通しにも市況悪化の影響がでています。同見通しにおいては「在庫評価損益などを除いた実力ベースの利益」においては過去最高となる8000億円を目指す一方で、1500億円の在庫損を計上する見通しです。

そのため、事業利益ベースでは2022年度対比3000億円以上の減益となる3700億円(2022年度は6940億円)を見込んでいます。在庫損は同社の本業における実力とは必ずしも直結しない部分もあるものの、ここまで大きな影響が出るとなると投資家も無視することはできないと考えられます。

加えて同社は、2023年度の配当見通しを140円とし、2022年度対比で40円の減配となる見通しを示しています。

もしこの見通しを前提とした場合は、配当利回りは2022年6月末時点で約4.7%に下がることに。配当利回りの低下リスクも、同社の売り要因の一つとなっていると考えられます。

日本製鉄の事業上のリスクは

「日本製鉄の事業等のリスク」において、同社のリスク要因が多数記載されています。これらを踏まえて、特に次のようなリスク要因には留意したいところです。

  • 市況変動リスク
  • 他素材との競合
  • 環境規制への対応

製鉄は経済環境や原料の価格変動、鉄鋼に対する実需などさまざまな要因で変動する鉄鋼価格に業績が左右されがちです。2023年度の同社のように本業が好調でも在庫評価損などが業績悪化要因となることもあります。

為替変動による損益変動や原油をはじめとした資源価格の高騰によるコスト高なども業績に対するリスク要因となります。

また、同社が「日本製鉄の事業等のリスク」にて「鉄鋼製品は、アルミニウム、炭素繊維、ガラス、樹脂・プラスチック、複合材、コンクリート及び木材のような他の素材と常に競合している」と示すように、他素材の開発や実用化の進展が鉄鋼需要の構造的な減退要因となる可能性も。短期では影響が見えづらくとも、長期で見たときに株価に対する重しとなる可能性があります。

最後に、環境規制による影響です。鉄鋼生産は大量の熱源を必要とするため、化石燃料の大量消費を避けるのは困難です。ESGやSDGsへの意識の高まりから、化石燃料使用や二酸化炭素排出への規制が強化されると、同社の業績圧迫要因となるでしょう。