下水道運営で外資を含む企業連合と契約した浜松市
2017年10月30日、世界の「水メジャー」の一社であるフランス水道事業運営大手のヴェオリアやオリックスなど6社の企業連合が、浜松市下水道施設の運営権売却(コンセッション)について正式契約を結んだと発表しました。これにより、浜松市は運営権対価25億円を受け取ることになります。
同企業連合は2018年4月から20年にわたり事業を担う予定で、従来の事業費と比べ14%、87億円のコストダウンを実現することを目指しています。
役所が行う業務の一部を民間に委託することはそれほど珍しいことではありません。ただし、今回は運営権を丸ごと売却する「コンセッション」というスキームが活用されているところがポイントです。
人口減や税収不足によって、今後は老朽化する上下水道などの社会インフラを維持できなくなるのではないかという不安が出てくるでしょう。一方、社会インフラ投資という名目で、それほど使われる見込みがない「箱もの」への投資にムダを感じる方も少なくはないと思います。
今回の取り組みは、コンセッション方式という仕組みを使い、民間の知恵とお金を活用してムダを減らした「稼ぐインフラ」に変えることにより社会インフラの老朽化という課題を解決していこうというもので、将来に向け注目されるのではないかと思われます。
浜松市のような取り組みはまだ少数派
ちなみに、コンセッション方式による官民連携(以下、PFI)のインフラ運営は政府が掲げる成長戦略の柱の一つとなっています。ただし、こうした取り組みが日本中で盛り上がっているかというと、必ずしもそうではありません。
昨年3月、奈良市では上下水道のコンセッション方式導入に向けた条例改正案が市議会で否決されています。また、今年3月にも、大阪市の水道事業を市から分離し、30年間の運営権を民間会社に売却する案が「公共性を担保できるのか」という慎重論が多数を占めたため、議会で否決されています
浜松市では、今回の下水道事業へのコンセッション導入に続き、将来は上水道事業への導入検討も開始していますが、これまでのところ日本で上下水道ともに実現した例はまだありません。言い換えれば、浜松市のような取り組みはまだ少数派ということでもあります。
空港運営で導入が進むコンセッション
とはいえ、日本でのコンセッション方式導入が全く進んでいないということではありません。国土交通省の資料によると、コンセッションを含むPFIの2017年3月末時点での累積契約数は609件、累積契約金額は約5.5兆円に達しています。
政府目標(2022年までに21兆円)に比べるとやや遅れているという印象は免れませんが、全く広まっていないわけでもないことがわかります。ただし、金額面で大半を占めるのは関西国際空港の民営化案件であり、水道事業ではありません。
では、なぜ水道事業ではPFIやコンセッションの導入が進まないのでしょうか。その理由としては、「水道事業を民営化してしまって本当に大丈夫なのか」という住民の不安が大きいことが挙げられます。
水道では水質汚染、大幅値上げ、断水など、”万が一のリスク”が顕在化した場合の影響は甚大です。そのため、民営化の意図が「いざとなれば、ペットボトルの水を飲めばいい」などの極論とは無関係でありながら、多くの人がそのような感情を抱いてしまうというのが現状であるようです。
そのため、こうしたセンシティブな事業を、外資を含む民間事業者に委託することを正式決定した浜松市のケースは、これがたとえ下水分野だけとはいえ、画期的な動きであると言えるでしょう。
水道事業の民営化は進むのか? 課題は住民コンセンサスの獲得
最後に、事業者から見た水道事業の魅力についても考えてみたいと思います。水道事業は、人口減により今後大きな成長は見込めない事業です。とはいえ、水道代金を払うことを躊躇する人(水道サービスを無料と考える人)はほとんどいないため、将来にわたり安定したキャッシュフローを見込める事業でもあります。
また、IoT技術や省エネ技術などを活用することでコストダウンに成功すれば、売上高は伸びなくても利益を拡大することは可能です。さらに、サービスを提供するエリアを拡大することでも利益成長の実現は可能です。
こうしたことを考慮すると、コンセッションがほぼ手つかずな日本の水道事業は、外資系を含む民間事業者にとっては依然として魅力的な事業と言えます。
残る課題は住民の理解とコンセンサスをいかに得ていくかということになります。何もせずに高コストな状態で放置しておけばよいのか、それとも民間の力を活用すべきなのか。行政が説明責任を果たすことは当然とはいえ、住民側の意識も問われるでしょう。
いずれにせよ、浜松市のようなケースが広がりを見せるのかを今後も注視していきたいと思います。
和泉 美治