数万人規模の東証一部上場企業から、10人にも満たないベンチャー企業に転職――身近にそういった人がいたら、他人事とはいえ「ずいぶん思い切った行動をしたな」「大丈夫なのかな」と思ってしまう、という人もいるかもしれませんね。

実際に転職した人はどう感じているのでしょうか。今回はAさん(40代・女性)の事例をご紹介しましょう。

2度目の転職でベンチャー企業に

Aさんは関西の私立大学を卒業後、地元では名の知られた東証一部上場企業にいわゆる総合職として入社。企画や秘書などの業務を経て、30代で別の東証一部上場企業に転職しました。その理由をAさんは次のように話します。

「給与はよかったしやりがいもありました。でも平日は朝6時台に出社してそのまま終電ということはザラ。土日もほとんど会社にいましたね。30歳になるころ『こういう働き方をあと10年は続けられないな』と感じてしまって」

2社目では専門スキルを生かした業務で評価され満足度も高かったと言いますが、40代になり管理職に昇進するというとき、Aさんが担当していた分野から会社が撤退。

「そのときに取引先だったベンチャー企業の経営者から一緒にやらないかと声をかけてもらいました」

こうして2度目の転職を果たしたAさんですが「これまでとはずいぶん仕事のやり方が変わって戸惑いました」と笑います。それはどういった点なのでしょうか。

「個の力」を意識せざるを得ない

転職前に勤めていた2社では「しっかり勉強させてもらい、スキルを身につけることができた」「社会人としての基本を叩きこんでもらえた」というAさん。「若いから、女性だからと軽く扱われた記憶もあまりなく、仕事を任せてもらえて、その点は本当にありがたかった」とも話します。一方、現在の仕事では「年齢や性別などはそもそも関係なく、とにかく結果重視」だといいます。

「人が少ないので個々のパフォーマンスにより目が行くというのはありますが、今まで以上に『自分で結果を出す』ことを意識せざるを得ません。かなりプレッシャーは感じます。もしかしたらこれまでは自分で提案して実行したことでも上司や役員といった他の誰かに承認をもらってやったことだと、心のよりどころにしていたのかも」

また、会議の回数、出席する人数の違いにも驚いたとAさんは言います。

「以前は何かと人数を集めて会議の連続。一度にその場にいる全員と合意形成できるとはいえ、責任の所在を薄めたいという気持ちでやっている会議もあったんじゃないでしょうか。今は会議自体がほとんどないし、集まる人数も絞られています。連絡事項の多くはメールやチャットで済ませてしまうので効率的ですが、コミュニケーション不足を感じるときもありますね」

ケタ違いのスピード感

Aさんが最も戸惑ったのは「スピードの速さ」だったといいます。

「即断即決のことが多くて『持ち帰って検討とかしないんだ!?』と驚いたことも多々あります」とAさん。

さらに、実行中のプランでもある程度の方向性が見えた段階で次の手を打っていくそうです。

「私は最初に承認を得たものは、期間にせよ内容にせよ守るものだと思っているところがあったんですが、今の会社では『3カ月試してみよう』と言いながら、必要だと判断したら1カ月ほどしか経っていなくても内容をどんどん変えていくんです。初めの半年ほどは『ちょっと前に言われたことと違う』とか『もう変わるのか』などといちいちビックリしていましたが、本当はこのスピード感がないとダメなんでしょうね…」

飲み会やイベントが激減

昔は終電間際まで働いた後、残業している同僚と飲みに行くことも多かったというAさん。今の会社では、そうしたことはまったくないといいます。

「たまたまなのですが、これまでいた2社は両方とも家族的な雰囲気のある会社だったので、それもあって同僚とも上司ともよく飲みに行ったり遊んだりしていました。そのうえ、私はベンチャー企業って、職場で飲みながら夢を語ったり、休日は家族ぐるみでバーベキューしたりしているものだと勝手に思っていたんです。ですから、ここまで何もないのは本当に予想外でしたね(笑)。

でも私は運動会やマラソン大会などの休日がつぶれるイベントは正直あまり好きではなかったので、自分で自由に時間が使える今の職場はありがたいです」

まとめ

いかがでしたか。「ある程度想定していてもやはり戸惑いはあった」とAさんもいいますが、入ってみたら想像と違った、ということはベンチャーへの転職に限らず、よくあるケースのように思われます。そうした点をさまざまな創意工夫で乗り越えていくことも転職の醍醐味なのかもしれません。

LIMO編集部