加熱する「たばこ増税」への“地ならし”報道
2017年10月25日、多数のメディアが一斉に政府・与党がたばこ増税の検討を行っていることを報じました。先の総選挙以前からこの件はたびたびニュースとなっていましたが、総選挙も終わり、いよいよ増税に向けた動きが本格化してきたと感じられます。
各社報道をまとめると、今回のたばこ増税の主な目的は、2019年10月に予定されている消費税増税時に食料品や新聞などに適用される軽減税率により、約1兆円の税収減になるのを補うことであるようです。
ただし、低所得者の医療費などの負担を軽減する総合合算制度の導入見送りで約4,000億円が捻出できるため、実際のたばこ増税で必要とされるのは約6,000億円という報道が多く見られます。
ちなみに、2010年10月に行われた前回のたばこ増税時には、1本3.5円、1箱(20本)あたり70円の増税で約3,500億円の税収増を実現しています(2011年度実績と2009年度実績の対比による)。
このため、仮に報道通りに6,000億円の税収増を目指すとすると、今回の増税では1本あたりの増税額を前回よりも大きくする必要があるということになります。
これまでは増税があっても税収は安定
そこで気になるのは、税金を上げ過ぎると喫煙者が急減する、あるいは消費量を減らしてしまうことで、税収増どころか税収減になってしまうのではないかという懸念です。
ただし、これまでのたばこ税収や販売数量などのデータを見る限り、そうした懸念はあまり強く持たなくてもよいと思われます。
というのは、健康意識の高まりや増税等による価格上昇の影響を受け、販売数量はこの10年間で約30%強減少してはいるものの、2006年度~20016年度のたばこ税収は、概ね2兆円程度で大きく変化していないからです(下図参照)。
販売数量が減少しても税収が減らないのは、一言で表せば、単価上昇が消費者に受け入れられたということになります。実際、日本たばこ協会のデータをもとに、販売金額から販売数量を割って求められる1本あたりの平均単価(ASP)を算出すると、2006年には14.75円であったものが、2016年には21.65円へと約47%上昇しています。
しかし、上述のように同期間の販売数量は約30%強の減少ですが、ASPの上昇により販売金額は約9%の減少に留まっています。つまり、単価が下がる(上がる)と需要が増える(減る)という価格弾力性が、たばこには当てはまらないということになります。
むしろ税収減の脅威は「加熱式たばこ」
このようなたばこの特殊性を考慮すると、今回、報道通りにたばこ増税が行われたとしても売上金額や税収には大きな影響を与えないことが想定されます。
ただし、ここで注意しなければいけないのは、「加熱式たばこ」が急速に人気を高めている点です。たばこ税は、たばこ葉の使用量で決まるため、加熱式たばこでは紙巻きたばこに比べ1本あたりの税収が減ることになります。
このため、税金を据え置いたままで加熱式たばこの人気化がさらに進むと、たばこ税収は2017年で約500~780億円、2020年で2,000億円~3,000億円ほど減るという試算も出ています(第一生命経済研究所と共同通信社の調査による)。
喫煙者の高額な税負担が続くのは確実
こうした報道を受けて、ネット上では様々な議論が展開されています。そこで意見が割れるのが加熱式たばこの扱いです。
加熱式たばこ支持派は、紙巻たばこよりもマシであること(臭いが少ない、燃やさないためタールによる害がないなど)を理由に、紙巻たばこだけの増税を行い、紙巻たばこから加熱式たばこへの誘導を進めるべきであると主張します。
一方、加熱式たばこ反対派は、加熱式たばこも”たばこ”であることには変わらない、不快な臭いがある、実際の健康への影響について中立的立場での調査結果がまだ出ていないなどの理由から、加熱式たばこを優遇する必要はなく、紙巻たばこと同様に増税すべきと言います。
おそらく、2兆円前後のたばこ税収を死守したい政府としては、後者の意見のほうが組みしやすいのではないかと思われます。その理由は、上述のように、紙巻きたばこは歴史的に増税を行っても税収が減らなかったことや、加熱式たばこの人気化に一定の歯止めをかけることが期待できるためです。
ちなみに、2015年度のたばこ税収(2.19兆円)を推定喫煙人口(2,084万人、日本たばこ調べ)で割った喫煙者1人あたりの年間納税額の平均は約10万5,000円です。これは、2009年と比べると約2万,7,000円も高い水準です。
今回の増税案がどのように決着するのかを現時点で予測することは困難ですが、いずれの結果になるにせよ喫煙者の高額な税負担が続くことだけは確実のように思われます。
LIMO編集部