新しい形の資金調達方法として、また仮想通貨による投資手段として「ICO」が話題となっています。このICOとはどのようなものなのか、IPO(新規株式上場)との比較も交えて見ていきましょう。
そもそもICOとは?
ICOとは「イニシャル・コイン・オファリング(Initial Coin Offering)」の略で、このところ急速に注目を集めている資金調達の手段です。ただ、資金調達をしたい企業がビットコインのような仮想通貨(クリプトカレンシーとも呼ばれる)を発行するのかといえば、そうではありません。
資金調達を目指す企業等は「トークン」を発行(=売却)します。次いで、そのトークンを欲しい人はビットコインやイーサリウム、ネムといった仮想通貨で購入します。それによって企業は資金調達が可能となります。
また、資金調達をした企業は取引所において発行したトークンの上場を目指します。トークンを上場させることで、トークンに流動性を提供することが可能です。一方、トークンの購入者はトークンが取引所で値上がりすれば、売却することでキャピタルゲインを得ることができます。
ICOでの資金調達は2017年5月以降急増し、7月には世界での資金調達額が6億ドルを突破したと見られています。
IPOとの違いは?
ベンチャー企業の資金調達といえば、新規株式上場、すなわちIPOが代表的存在でした。このIPOとICOには多くの違いがありますが、発行するのが株式かトークンか以外に、大きな違いは以下の3点です。
① 証券会社の介在の有無
② 準備作業量
③ 投資家や購入者の権利
① 証券会社の介在の有無
IPOでは証券会社が上場のための指導や審査を行います。しかし、ICOで企業が直接投資家から資金の調達を行うケースでは証券会社が介在しません。
② 準備作業量
IPOでは目論見書作成等の膨大な事務作業が必要となります。一方、ICOではホワイトペーパーと呼ばれる一種の事業計画書を作成するのみで、現時点ではスピーディーな資金調達計画が可能です。
トークンの購入希望者はホワイトペーパーによって事業の成長性や実現性を判断して購入するかどうかを決めます。ただし、ホワイトペーパーにおける記載内容は発行企業の任意の情報であるため、限られたものであると言えます。
③ 投資家や購入者の権利
IPOでは、投資家(=株主)は株主総会の議決権行使を通じて投資先の経営に対して影響力を行使できますが、ICOではトークンの所有者に過ぎないため、原則として経営に対する影響力はありません。
ICOが話題になっている背景とは
資金調達側から見ると、IPOよりも遥かに使い勝手のよいICOですが、話題となる理由は投資家側にもあります。
ICOで利用されることの多い仮想通貨イーサリアム自体もICOで資金調達を行っていますが、ICO後にトークンの価格が数十倍に上昇しています。その他にもトークンの価格が2倍以上になるICO案件が続出したため、一気に注目されることになりました。
このように、資金調達する企業側にもトークン保有者側にも相応のメリットが期待できるとなれば、話題にならないわけはありません。
ICOの課題は何か
いいことづくめのように見えるICOですが、無視できない問題もあります。
IPOの場合は証券会社が企業を指導するため、実体のない会社のIPOは実現しません。一方で、ICOは全て投資家の自己責任であり、詐欺的な資金調達案件が出てこないとも限りません。
実際、9月上旬に中国政府が経済秩序を乱すとしてICOの全面的な禁止を発表したというニュースは記憶に新しいところだと思います。また、ICOで資金調達を行った企業で事業計画が遅れているケースが多いとも言われています。
現状ではICOが企業成長促進の仕組みとして正常に機能しているとは言い難く、詐欺的案件が隠れている可能性は否定できません。そのため、投資初心者が近づくには非常に危険な状態と言ってもいいでしょう。
まとめ
仮想通貨を利用した資金調達の方法として、ICOに将来性はあるものの、IPOに比べると開示される情報も乏しく、制度としては未成熟と言わざるをえません。
また、資金調達側には非常に魅力ある仕組みですが、投資家にとって、現在のような期待感だけでトークンの価格が上昇するバブル的な様相が長く続くとは思えません。
ICOは話題とはなっていますが、投資家が安心して資金を投じられる状態となるには、まだ相当の時間がかかるのではないでしょうか。
石井 僚一