盛り上がる定年延長議論

「定年」というテーマは、まだ50歳になっていない方にはあまり実感の持てる話題ではないでしょう。また、そもそも定年という制度のない外資系企業にお勤めの方や自営業の方には、それほど関心のない問題かもしれません。ちなみに、外資系で定年がないのは、実力主義が基本であることや、定年が「年齢差別」とみなされることもあるからです。

とはいえ、最近「定年延長」の話題が増えています。たとえば、日本経済新聞の最近の報道を見ると、「西部ガス 定年後の嘱託、待遇改善 給与、評価別3段階」(9月13日)、「日本生命が定年65歳に延長 1.5万人対象、21年度から」(9月5日)、「公務員定年を65歳に 政府検討、19年度から段階的に」(9月1日)といったように、この2週間だけでもこのテーマの記事が3本ありました。

「人生100年時代」においては65歳でも早すぎるという意見もあるかもしれませんが、官民問わず定年時期を延長しようという動きが目立ってきたことは間違いありません。

なぜ定年延長が必要か、その2つの理由

なぜ今、このような議論が活発化しているのか、また、定年の延長はなぜ必要なのでしょうか。その理由は以下の2点にあります。

第1は、「高年齢雇用安定法」が2013年4月から施行されたことです。

この法律は、急速な高齢化の進行に対応し、高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続けられる環境の整備のために作られています。

雇用主は、2025年度までに希望する従業員の雇用を65歳まで確保するために、「定年年齢の引き上げ」「再雇用制度」「定年退職制度の廃止」のいずれかを実施することが義務づけられています。

あくまでも「希望する」従業員が対象で、従業員全員の定年を65歳へ引上げることを義務付けるものではありませんが、所轄の厚生労働省は指導や助言に従わない企業の名前を公表するなどの罰則規定を設けています。このことが、制度変更を行う企業が最近増えてきている最大の理由であると考えらえます。

第2は、60歳代前半の老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢が、2013年から2025年にかけて65歳へと段階的に引き上げられることになったためです。

この問題は、とりわけ1980年代後半〜90年代初めに入社した、いわゆるバブル世代の人たちには深刻な問題です。たとえば、現在52歳の人が8年後の2025年に60歳となった時、そこで無職となった場合には、それから5年間は年金がもらえず、無収入となってしまうからです。

こうした事態を防ぐことを目的としたのが第1の「高年齢雇用安定法」であり、定年延長を行う企業が増えているのも、これらの不安を取り除くことを目的としていると考えられます。

増え続ける60歳以上の常用労働者

では、実際に65 歳定年を導入している企業はどれくらいあるのでしょうか。2016年10月に発表された厚生労働省による調査資料によると、65歳以上定年企業は24,477社(前年比1,318社増加)、全体に占める比率は16.0%(同0.5ポイント増加)となっています。

また、65歳以上定年を会社の規模別で見ると、中小企業では23,187社(同1,192社増加)/16.9%(同0.4ポイント増加)、 大企業では1,290社(同126社増加)/8.2%(同0.7ポイント増加)となっており、中小企業のほうがこの比率が高くなっています。

このように、実際に定年を引き上げた企業は全体で見るとまだ少数派に留まっています(特に大企業)。

一方、この調査資料で興味深いのは、60歳以上の常用労働者(51人以上規模の企業)については、以下のように一貫して増加傾向にあり、10年間で約2.6倍に増加していると示されていることです。

2006年:114万人
2011年:231万人
2016年:294万人

65歳以上定年を導入している企業がまだ少数派だとはいえ、60歳を超えてからも働き続けている人が増えている。これが現在の日本社会の現実ということが、このデータから良く理解できると思います。

定年延長問題の今後

定年延長問題に関しては、最近では公務員定年を65歳に引き上げることも話題となっています。政府は、2019年度から段階的に定年を引き上げる案を、早ければ来年にも国会に提出すると報じられています。

ここで議論となるのは民間との格差です。現時点では内容はまだ詳細に決まっていませんが、各種報道によると給与面での待遇は60歳までと変わらずに65歳まで働けるとのことです。

民間企業の場合は、50代なかばで役職定年となり大幅に給与は減額され、さらに定年延長を実施した企業でも60歳以降の給与はそこからさらに下がることが一般的です。

無年金状態を回避するためや、民間のお手本となるため、という理由で公務員の定年延長が拙速に実施された場合、社会の反発は避けられないのではないかと推測されます。

もちろん、民間企業も公務員と同じように高待遇で60歳以上の雇用を行えばよいではないか、という考えもあるかもしれません。とはいえ、そのためには、利益を削って総人件費を増やす、あるいは60歳以下の従業員の報酬を減額し総人件費を維持することがなければ、民間企業の場合は立ちいかなくなるでしょう。

そう考えると、この定年延長の議論は、定年がまだイメージできない若手社員にも関係する問題であるということになります。

さて、この難題、皆さんはどうお考えでしょうか?

LIMO編集部