アジア開発銀行(ADB)の統計によると、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国、韓国を合わせた地域全体での債券市場の規模は2016年9月末時点で約8.8兆ドルに達しました。日本の国債市場規模が約8.5兆ドルですので、これを上回ったことになります。また、社債も含めた円債の市場は全体で約9.2兆ドルですので、既にこれとほぼ肩を並べたことになります。
今回は、投資対象として一段と注目度が高まっているアジアの債券市場について見ていきたいと思います。
債券バブルの2016年、一時的に乱気流は起きたが...
まず、過去2年間の債券市場そのものの動きを振り返ってみましょう。
2016年は、債券バブルとまで言われるほど債券選好が強い1年でした。先進国の中央銀行による金融緩和姿勢と未曾有の長期債購入などによる市場介入に加え、リスクオフという言葉で表されるように投資家がリスク回避姿勢から安全資産を求めたため、債券の利回りはかつてない水準にまで低下しました。
その中で、アジアの債券も過去最高水準の資金が流入することとなり、利回りは急低下しました。いわば、外的な要因である先進国発のデフレ懸念を要因に相場が展開したと言えるでしょう。
しかし、トランプ米大統領誕生後の11‐12月は状況が一変しました。財政政策発動・規制緩和期待から株価が急伸し、金利の低下期待は払拭され、債券の価格は下落(利回りは急上昇)しました。前述と逆のことが起こったわけですから、アジアの債券も当然値崩れを起こし、むしろ、ずるずると売り込まれてしまうという懸念まで拡がりました。
これは、2013年に起きたテーパータントラムの記憶が市場に強く残っていたためです。その当時、バーナンキ米FRB議長が量的緩和縮小に言及したことに端を発した債券市場の動揺により、アジアの債券をはじめとする資産の売却が起こり、一時は世界的に市場混乱への警戒感が強まったことがありました。
昨年末から今年にかけても、当時の状況と多くの共通した点があるのは確かです。しかし、結果としては、アジア債券市場に2016年に流入した資金と比べると、2017年初めに流失した額はわずかな規模にとどまり、むしろ流入額は拡大しました。
引き続き資金ニーズが旺盛なアジア地域
次に、今後の債券市場の動向について見ていきましょう。
先進国は今後も低成長、かつ、インフレ率も低率にとどまるという見通しが広がる中、最近は「適温経済」との見方が出てきています。
米FRBは、実際に利上げやバランスシートの縮小へ向けたアドバルーンを上げていますが、それでも、実体経済の成長速度が速くなく、インフレの可能性も小さいことから、債券の利回り曲線はフラット化し、むしろ長期金利は2017年の初めより低下しています。この動きは、アジアの債券への見方も楽観的なものにしていくことでしょう。
内的な要因では、アジアをはじめとする新興国市場では、個別銘柄レベルでは多くの企業が過去2年間に負債管理に力を入れてきたため、ほとんどの借り換えニーズは既に満たされていると言われます。これは、2017年の新規発行の純増分がそれだけ抑えられることを意味します。
デフォルト件数については、現実には新興国のデフォルト率は先進国でのデフォルト率を下回って推移しています。2016年前半には新興国のデフォルト件数が一時的に増えましたが、そのほとんどは中南米の石油・ガス開発会社が関係したものでした。アジアでは落ち着いた推移が続いています。
また、アジアでは今後ますますインフラなどの投資が拡大し、地域特有のテーマとして資金ニーズは旺盛と予想されています。一方で、富も蓄えられてきており、アジアでは新規発行の95%がこれからも域内で消化され続けていく見通しも出されています。
さらに、アジアの債券市場では中国の投資適格債が大きなシェアを占めています。これらは明示的な政府保証があるか、「大きすぎて潰せない」という暗黙の了解がある企業が発行する債券とみなされ、債券利回りの低下が続く中、市場での注目は高まっています。香港からは、中国国内の債券に投資できる「債券通」がすでに今年7月から始まりました。今後の規制緩和にも注目が必要でしょう。
ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一