半導体事業の売却だけに注目していいのか?
経営危機にある東芝(6502)に関する目下の焦点は、半導体子会社である東芝メモリ売却を2018年3月期末に行い、2期連続の債務超過を回避して上場廃止を免れられるかどうかです。そのため、売却のカギを握る米ウエスタンデジタルと東芝による交渉の行方にメディア報道が集中しています。
一方、仮に上場廃止を回避できたとして、その後の「新生東芝」の行方についての報道や、会社側からの情報発信は最近ではほとんど見当たりません。今はそれどころではないと言ってしまえばそれまでですが、上場維持や東芝メモリ売却の成否にかかわらず、その後も従業員約15万人を抱える東芝の事業は継続されるので、この売却問題だけに関心が集中することには違和感を覚えざるをえません。
とはいえ、東芝復活の妙案を思い描くのは容易ではありません。そこで”頭の体操”に少しでも役立つかと思い、今から半世紀前に起きた東芝の経営危機を救った土光敏夫氏(1986年~1988年)の『私の履歴書』(日本経済新聞)を読んでみました。
そもそも土光さんとは
土光氏は、もともとはタービンのエンジニアですが、石川島播磨重工業(現在のIHI)の社長、東芝の社長・会長、日本経済団体連合会(経団連)会長などに加え、晩年は当時の中曽根康弘行政管理庁長官らに請われて第二次臨時行政調査会長という政府の要職につき、行政改革に辣腕を振るったことでも有名な財界人です。
土光氏が東芝の社長に就任したのは1965年ですが、その前年の1964年まで14年間にわたり石川島播磨の社長を務め経営改革を推進していました。当時、東芝は減配続きで業績が振るわず、土光氏にその再建を託したのは第一生命保険社長、経団連会長、万国博会長などを歴任した石坂泰三氏(当時の東芝会長)でした。
『私の履歴書』に出てくるその頃の逸話は、「率先垂範」「コミュニケーションの明確化」「権限移譲」「チャレンジ・レスポンス」など、やや精神論めいています。また、現在の東芝ほどには財務も悪化しておらず、不正会計問題もありませんでした。そのため、今の状況に直接役立つ教訓は残念ながら見当たりませんでした。
ただし、今の東芝社員はここ数年の混乱により士気が低下していると思われるため、こうした精神論が無意味だとは言いきれません。
また、土光さんは「資本金も従業員数も石川島播磨の3倍くらいはある」巨大企業の東芝に乗り込み、再建を果たした点も注目できます。
大企業病を治癒するためには、むしろ小粒企業で経営改革を行ってきた実績や外部の知見を活かし、社外取締役という中途半端な立場ではなく、執行サイドに入り込んで社員とともに再建に取り組むことが大切である。そうした教訓もここからは読み取れるのではないでしょうか。
いっそIHIが東芝再建の中心的な役割を担ったらどうだろうか?
少し話は飛躍しますが、『私の履歴書』を読む中で、IHI(7013)が東芝の再建に関与することはできないだろうかという考えが浮かびました。理由は3点あります。
第1は、東芝とIHIは土光さん以来、関係が深くなっていることです。事業面での直接のつながり少ないものの、発電分野では、東芝はタービン、IHIはボイラーを手掛けるなど、一部で関連性があります。また、両社とも「社会インフラ」を主要分野としているため、販売面でのシナジーやインフラ分野でのIoT技術活用などの展開も期待できるかもしれません。
第2は、財務面でのサポートです。IHIは江東区の豊洲地区を中心に多くの賃貸不動産を保有(2017年3月期末時価2,549億円)しているので、こうした資産の一部活用も可能ではないかと考えられます。
第3は、ガバナンス改革でのIHIの過去の経験の活用です。IHIには、2007年に有価証券報告書の虚偽記載の疑いで東証監理ポストに指定されるという不名誉な過去があります。その後、ガバナンスの改善等を行った結果、2008年には監理ポストから特設注意市場銘柄へ変更され、2009年には特設注意市場銘柄の指定を解除されています。その経験も、東芝のガバナンス改革に役立てることができそうな気がします。
まとめ
上述のIHIが関与する東芝の再建案は、あくまでも”頭の体操”にすぎません。とはいえ、東芝の再建については、債務超過の回避だけに注目すればよい、というわけでもありません。
土光さんの時代のように、国(税金)には頼らず、外部の知見を取り込みながら自由に発想することが求められると思います。いずれにせよ、様々な角度からその議論が深まることに期待したいと思います。
LIMO編集部