しかし、バブル崩壊後の長期停滞期に「グローバルスタンダード」などという言葉が流行り、米国の真似をして「企業は株主の物だから、儲かったら配当するのが当然」と考える経営者が増えてきたのです。上場企業の株主に占める外国人のウエイトが上昇したことも、そうした流れを加速させたと言われています。
日本企業は、「終身雇用・年功序列賃金」と「儲かったら賃上げ」という二つの点で米国企業と異なっているわけですが、前者が残って後者だけが変化したので、正社員の給料が上がりにくくなってしまったのです。
ちなみに、米国では、全員が「非正規労働者」ですから、釣った魚ではないので、労働力不足になれば素直に社員の給料も上がります。日本の現状が、特殊だというわけですね。
同一労働同一賃金に近づくという意味では、悪いことではない
政府は、同一労働同一賃金を目標に掲げています。一方で、上記は、政府の施策とは関係なく、労働力不足が同一労働同一賃金を実現していく力を持っていることを示唆しています。
ワーキングプアの生活がマトモになり、若手の給料が上がり、中小企業の給料が上がり、大企業のベテランの給料が上がらないからです。これは、ある意味素晴らしいことです。
大企業のベテラン社員にとっても、悪い話ではありません。退職後は再雇用されるにしても転職するにしても、釣られた魚ではなくなりますから、自分の将来の待遇は、周囲の非正規労働者等々の待遇に影響されるわけです。そう考えれば、皆にとって望ましい変化が起きている、と考えることも可能なのではないでしょうか。
なお、本稿は、拙著『経済暴論』の内容の一部をご紹介したものです。厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。
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塚崎 公義