意外に大きい日本の防衛産業

北朝鮮をめぐり、きな臭い動きが続いています。そうした中、日本の防衛産業について株式投資の観点から考えてみました。

まず、市場規模について「防衛産業に関する取組」(防衛装備庁)のデータから見てみましょう。この資料によると、防衛産業の市場規模は約1.8兆円となっています。

これは、自動車等製造業(52兆円)や電子工業(約12兆円)に比べると小粒ではあるものの、航空機産業(約1.3兆円)、造船(約1.6兆円)、家庭用電気機器(約1.8兆円)との対比では、それ相応の規模感であることが理解できます。

なお、この資料によると「防衛産業は単一の産業ではなく、車両や艦船、航空機から、弾火薬、被服、燃料といった多種多様な産業分野を含む複合産業」であるとのことです。なお、日本の防衛費(米軍再編関連費用を含む)は年間約5兆円ですので、このうち36%がこのような分野に使われていると見ることもできます。

1位は三菱重工業

では、防衛産業の主力企業とはどのような企業でしょうか。

下表のように、防衛装備庁では毎年、上位20社の契約実績を公表しています。平成28年度(2016年度)のトップは三菱重工業(7011)で、調達額全体の約25%を占めていました。続く2位は川崎重工業(7012)、3位はNEC(6701)、4位は富士通(6702)、5位は三菱電機(6503)と、上位には造船メーカーや総合電機メーカーが目立ちます。

防衛省向けサプライヤー上位20社一覧(2016年度)

出所:防衛施設庁

コマツ、SUBARU、ダイキンなどの名前も

5位以下の顔ぶれを見ると、やや意外な企業も見られます。

まず9位の小松製作所(6301)です。同社は「建機のコマツ」として有名ですが、装甲車や、りゅう弾と呼ばれる陸上兵器や艦載兵器の砲弾も製造しています。

また、今年4月に社名を富士重工から変更したSUBARU(7270)も10位となっており、主にヘリコプターを納入しています。

さらに、エアコンで有名なダイキン(6367)も15位に位置しています。同社は戦車砲用演習弾や、信管、航空機部品などを納入しています。

防衛関連は魅力的な投資テーマとなるのか?

防衛関連の主要企業は上述の通りですが、上位20社合計のシェアは6割に留まるため、残り4割にも多数の関連企業が存在していることになります。

では今後、防衛関連は持続的な成長が期待できる魅力的な投資テーマとなるのでしょうか。

地政学的なリスクが高まった局面では一時的に注目される可能性はあるものの、長期投資のテーマとしては、やや難点が多いのではないかと思われます。その理由は以下の3点です。

第1は、日本では専業メーカーが存在しないことです。世界の防衛関連企業のトップ5の場合、売上高に占める防衛関連比率は、ロッキード・マーチンが82%、ボーイングが31%、BAEシステムズが94%、レイセオンが94%、ノースロップ・グラマンが82%と、ボーイングを除くと防衛関連が大半を占めています。

これに対して、三菱重工業では10%、川崎重工業が15%、IHIが9%、三菱電機が3%、NECが4%と、日本では大手企業でも売上高に占める防衛関連比率は極めて低い水準に留まっています。このため、これらの企業を投資対象として注目するのであれば、防衛以外のテーマに注目すべきということになります。

第2は、市場の成長性が読みにくいためです。2014年4月に「武器輸出三原則」が撤廃され、理論的には日本企業は防衛関連の輸出が可能となっています。とはいえ、世界全体における日本の防衛支出シェアは約2%に留まり、上述したように欧米には専業大手が多数存在しています。

このため、今からこうした先行企業と伍していけるかは極めて不透明です。また、政治的な理由はともかく、財政的な問題からも日本の防衛予算を大幅に増やすことは難しいのではないかと考えられます。

第3はSRI(社会的責任)やESG(環境・社会・企業統治)を重視した投資ファンドのプレゼンスが高まるなかで、防衛産業関連の銘柄は投資対象から外される可能性があるためです。

こうしたファンドでは、倫理的な観点から児童労働、ギャンブル、タバコ、アルコールなどと並んで、武器に関連した銘柄をネガティブスクリーニングにより排除する可能性があると考えられます。

まとめ

防衛関連の製品には先端的な技術が要求されます。そのため、こうした製品を手掛けられるというのは、それだけ高度な技術力を有している企業の証でもあります。

よって、防衛関連としては注目できなくても、それ以外の民需関連事業の成長性から長期投資の対象として注目可能な銘柄を探すことは可能であると思われます。いずれにせよ、地政学的リスクが高まると注目を集める防衛関連製品が必要とされない平和な世の中が続くことを願いたいと思います。

LIMO編集部