日本は、バブル経済が崩壊した1990年代以降から、賃金水準が30年間ほぼ上がっておらず、低迷し続けています。

帝国データバンクによると、値上げ品目数は2023年4月で約5000品目、5月以降も4000品目にのぼるとのこと。

「物価はどんどんと上がる一方で、なぜ賃金は上がらないのか」疑問や不満を抱えている人も少なくないでしょう。

本記事では、日本の賃金水準が30年間変わらない理由について解説しています。

現在の都道府県別の賃金水準も紹介しているので、あわせて参考にしてみてください。

30年前と賃金が変わっていない?

国税庁が調査した「平均給与及び対前年伸び率の推移」では、平成23年から令和3年にかけて、平均給与がほとんど変動していないことが分かります。

出所:国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査」

対前年伸び率をみてみると、ポイントが増加している年もある一方で、マイナスになっている年も多くあります。

平均年収が30年間変わっていない点について、世界の現状とも比較してみましょう。

実はフランスやアメリカといった他国においては、賃金が上昇傾向にあります。

実際、経済協力開発機構(OECD)のデータによると、1991年の日本の平均年収は37.9kドルなのに対して、2021年は39.7kドルと、ほとんど変化が見られません。

その一方で、フランスやアメリカは賃金の上昇が見られており、その差は歴然となっています。

上記の結果からもわかるとおり、世界に比べて日本の賃金は変わらない現状となっています。

なぜ日本の賃金は変わらないのか

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前章では、日本の賃金水準が停滞し続けている現状について解説しました。

ではなぜ、先進国である日本の賃金は約30年間変わっていないのでしょうか。

理由はさまざまですが、1つの要因として「賃金を上げなくても労働者がいる」ことが挙げられます。

そもそも賃金は、労働需要に対して労働人材が不足すれば、必然的に上がる傾向にあります。

しかし、この数十年において日本の産業は、賃金水準が比較的低い非正規労働者が増加傾向にあることから、賃金が上昇しなくても労働需要に対して労働人材の供給量が間に合っている現状がうかがえます。

実際に、国税庁が調査した「令和3年の民間給与実態統計調査」によると、正規労働者の平均給与が508万円なのに対して、非正規労働者の平均給与が198万円であることからも、賃金の差は歴然となっています。

また、近年においては公的年金の受給開始年齢が引き上げられたり、育児と仕事の両立が推進されたりしていることで、高齢者や育児中の女性が働くことも多くなりました。

とはいえ、高齢者や子どもの世話を引き受ける女性がフルタイムで働くことは難しく、非正規労働という形で働くケースが見られます。

このような背景もあり、賃金水準の低い労働者が増加しており、労働需要に対して労働人材の供給数が間に合っていることから、賃金水準が停滞するひとつの要因になっているとうかがえます。

都道府県別の賃金の違い

前章では、日本は約30年間、賃金水準が停滞し続けていると解説しました。

では実際、現在の日本における賃金水準はどうなっているのでしょうか。

厚生労働省が調査した「令和4年賃金構造基本統計調査」では、都道府県別の賃金水準は下記の結果となりました。

出所:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」

都道府県別の賃金をみると、全国計(311万8000円)よりも賃金が高かった都道府県は、下記5つです。

  • 東京都:375万5000円
  • 神奈川県:335万6000円
  • 愛知県:312万6000円
  • 大阪府:330万9000円
  • 兵庫県:312万3000円

国は、賃金上昇の政策として、「最低賃金制度」や「最低賃金・賃金引上げに向けた生産性向上等の支援」などを行っていることから、最低賃金はわずかながらも上昇しつつあります。

とはいえ、全国の賃金でワーストとなった青森県(247万6000円)と東京都では、賃金に大きな差があり、都市と地方で格差がますます広がりを見せていることが分かります。

日本では物価が上がり続ける一方で、賃金水準に関する課題はまだまだ山積みであることから、今後の政府の政策に期待が高まっています。

賃金水準の停滞に対する政府の対応に注目

本記事では、日本の賃金水準が30年間変わらない現状や理由について解説していきました。

日本の賃金水準が数十年停滞し続けている要因の1つとして、労働需要に対して労働人材の供給数が足りていることが挙げられます。

近年、働き方の多様化によって、高齢者や女性が非正規労働で働きやすくなった反面、賃金水準の停滞があるのが課題です。

さらに、都道府県別にみると、都市部と地方で賃金水準に格差が見られることから、まだまだ賃金水準に関する課題は山積みと言えます。

物価が上がり続ける日本では、今後の政府の政策・対策に注目が集まっています。

参考資料

太田 彩子