明暗が分かれた決算発表当日の株価
三菱電機(6503)と三菱重工業(7011)は、誰もが知る日本の製造業を代表する大企業です。東証の分類による所属セクターは異なるものの(三菱電機は電気機器、三菱重工は機械)、1921年に三菱重工の電機部門が分社化して三菱電機が発足したという歴史的な経緯などから、両社には、重複あるいは類似した事業があります。
たとえば、エアコン(三菱電機は「霧ヶ峰」、三菱重工は「ビーバー」)、発電システム関連(三菱電機は発電機、三菱重工はタービン)、宇宙関連(三菱電機は衛星、三菱重工はロケット)、鉄道(三菱重工は鉄道車両、三菱電機はモータなどの電機品)などです。
また、決算も同日の午後に発表されることが多くあります。実際、今回の2018年3月期第1四半期決算も7月31日午後の取引時間中に発表されています。
ただし、決算内容と株価の反応は明暗が分かれました。
三菱電機の決算は、FA機器の好調などにより営業利益が前年同期比+24%増益となり、上期および通期業績の上方修正も発表されたため、31日の株価は前日比0.3%高で引けています。
一方、三菱重工の決算は、MRJの開発費増加などが響き、営業利益は同▲35%減益となり、株価は▲3.6%安で引けています。
また、直近1年間での株価も、三菱電機が約43%上昇しているのに対して、三菱重工は約5%の上昇に留まっています。
業績にも格差が
では、そうした両社の業績について比較してみましょう。
まず、売上高ですが、過去5年間の累計(2013年3月期~2017年3月期)では、三菱電機が20.6兆円に対し三菱重工が18.1兆円とそれほど開きはありません。また、2017年3月期(以下、直近年度)でも三菱電機が4.2兆円に対して、三菱重工は3.9兆円と違いはわずかです。
同様に営業利益も、直近年度では三菱電機の2,700億円に対して三菱重工が1,505億円とやや開きがあるものの、5年間の累計で見ると、三菱電機の1.28兆円に対して三菱重工は1.12兆円とそれほど大きな違いはありません。
ただし、最終利益(親会社株主に帰属する純利益)には大きな違いがあります。5年累計では、三菱電機の8,967億円に対して三菱重工は5,197億円と約1.7倍の開きがあります。また、直近年度では、三菱電機の2,105億円に対して三菱重工は877億円と約2.4倍の大きな差が見られるのです。
売上高や営業利益にはそれほど違いがないにもかかわらず最終利益に大きな差がある一因としては、三菱重工がこの期間、客船事業関連の損失引当金や事業構造改革費用などで多額の特別費用を計上してきたことが挙げられます。
逆の言い方をすれば、三菱電機は構造的に問題のある事業の整理を終えていたために、そうした「後ろ向き」の費用計上が少なかったという見方も可能かもしれません。
いずれにせよ、売上規模にはあまり差がないものの、最終利益では大きく水が空いたというのがここ数年の両社の状況であるということになります。
役員報酬にも大きな差が
さて、三菱電機といえば、1億円超の役員報酬を得た役員の数が多いことが話題に上ります。実際、2017年3月期は22人と昨年よりも1人減ったものの、4年連続で最多数の記録を確保しています。
一方、三菱重工業はというと、2016年3月期で4人、2017年3月期は2人に留まり、この話題で同社の名前が挙がることはありません。
ちなみに、有価証券報告書に開示されている2017年3月期の役員報酬の総額は、三菱電機が約28.9億円に対して、三菱重工は7.4億円と、上述の最終利益の差をさらに上回る格差が見られます。
また、細かく見ると、役員報酬のうち業績連動報酬は、三菱電機の場合約13.9億円(役員報酬総額の約48%)に対して、三菱重工の場合は約1.8億円(同24%)と、さらに大きな開きが見られます。
1億円プレイヤーが多いのは結果なのか原因なのか? それが問題
このように、三菱電機に1億円プレイヤーの役員が多い理由は、業績が好調であり、結果として業績連報酬のウエイトが高まっていることが要因であることがわかります。
では、1億円プレイヤーが多いのは単なる業績好調の結果なのでしょうか。それとも、1億円プレイヤーを輩出する仕組みが好業績の原因なのでしょうか。
言い換えると、たまたま業績が良かったために多数の1億円プレイヤーを生み出すことができたのか、あるいは、努力が報われる報酬制度により役員のモチベーションが高まり、好業績を生む原因となったのかということです。
こうした疑問に対する明確な答えを、現時点で筆者は持ち合わせてはいませんが、できれば「原因」であってほしいと考えています。
そうであれば、三菱電機を見習って「努力に報われる報酬制度」を導入し、業績を改善していく企業が日本にさらに増えることになるからです。とりわけ、同じ三菱グループでありながら現在は業績が冴えない三菱重工には、そうあってほしいと願わざるを得ません。
いずれにせよ、「1億円プレイヤーを多数輩出」というニュースを、羨ましがったり、妬んだりする題材ではなく、業績を改善させるための「仕組み」という観点から今後も注目していきたいと思います。
LIMO編集部