7月25日、26日の両日、米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されます。声明文の発表は日本時間の27日午前3時ごろの予定です。バランスシートの縮小開始を目前に控えた今回のFOMCでのポイントをまとめてみました。
BS縮小は次回9月会合で決定へ、一部に前倒しで今回との声も
今回のFOMCのポイントは2つあり、1つはバランスシート(BS)の縮小をいつ開始するのか、もう1つは次の利上げはいつになるのかということです。
バランスシートの縮小開始に関しては9月で大方の見方が一致しています。前回6月のFOMC後の記者会見で、イエレン議長は年内開始を明らかにした上で、「比較的早く」開始すると述べ、縮小案も公表しています。
また、7月12日の議会証言でも「比較的早く」と念を押していますので、記者会見の予定がある9月FOMCでの決定が有力視されています。
6月のFOMCでは、保有している債券の償還分の再投資について、当初は米国債を月額60億ドル、モーゲージ証券(MBS)を月額40億ドルずつ縮小し、3カ月ごとに上限を引き上げて1年後には米国債を月額300億ドル、MBSを月額200億ドルずつ縮小するとしています。
少数意見ではありますが、既に縮小案が公表されていることもあり、今回のFOMCで開始が決定されるとの見方もあります。開始を急ぐ理由は主にトランプ政権の混乱にあります。
トランプ政権は相変わらずロシア疑惑に揺れており、オバマケアの改廃案も迷走したままです。
米議会予算局(CBO)は遅くとも10月半ばまでに債務上限で合意できなければ債務不履行(デフォルト)の恐れがあると指摘していますが、予算審議は難航が見込まれており、その影響で一部の債券利回りが上昇し、デフォルトリスクを織り込み始めています。
こうした混乱が見込まれることから、バランスシートの縮小も可能な限り前倒ししてくる可能性もあるのではないかと見られています。
声明文では次回利上げのヒントを探す
次回の利上げについては意見が分かれています。12月との声がやや優勢ではありますが、来年以降に先送りとの見方も少なくありません。
FOMCメンバーによる6月の見通しでは、年内にもう1回の利上げを見込まれていることが12月に追加利上げを支持する根拠となっています。
一方、利上げが先送りされるとの見方はインフレ率の低下を警戒しています。
イエレン議長は、6月FOMC後の記者会見でインフレ鈍化は一時的との見方を示しましたが、3週間後に公表された議事録ではインフレ鈍化を懸念しているメンバーが複数おり、FOMC内でインフレに対する見方が分かれていることが判明しています。
さらに、今月の議会証言でイエレン議長が「今後数カ月の物価動向を見極める」と発言し、インフレに対して慎重な見方を示したことが12月の利上げ観測を後退させています。
今回のFOMCでは記者会見や経済見通しの公表はありませんので、当日発表される声明文のみがヒントとなり、3週間後に公開される議事録で内容を確認する運びとなります。
声明文でのポイントは、
- バランスシートの縮小を次回9月の会合で開始することが示されるのか
- 次回利上げのヒント、特にインフレに対する見方に変化はあるのか
ということになりそうです。
もしかしたら利上げはもう終了?
最近のウォール街では、議会証言でイエレン議長が「低水準のインフレ率や自然利子率により、利上げ余地は限られる可能性がある」と述べたことが話題になっています。
自然利子率とは中立的な実質金利のことで、大雑把に言えば次のような関係があります。
名目金利 = 自然利子率 + 期待インフレ率
FRBの金融政策は自然利子率が1%であることを前提に、インフレ目標の2%を達成することで政策金利は3%が適切との判断に基づいています。つまり、
3% = 1% + 2%
ということです。
ただ、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁やブレイナードFRB理事らが「自然利子率はゼロ近辺まで低下している可能性がある」と指摘しており、イエレン議長の発言もこうした見方を受けてのことだと思われます。
足もとのインフレ率は1.4%となっており、自然利子率がゼロなのであれば政策金利はインフレ率と同じとなります。一方、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標は現在1.00~1.25%であり、実際のFF金利は1.2%近辺を推移しています。
したがって、文字通り「利上げ余地は限られる」となるわけで、あるファンドマネージャーからは「もしかしたらもう利上げはないのではないか」との声も聞かれています。
次期総裁の影に市場が反応?
FOMCから派生するポイントとしては、人事の動きがあります。
トランプ政権は7月10日、金融規制担当のFRB副議長に元財務次官のランダル・クオールズ氏を正式に指名しました。このポストは金融規制改革法(ドット・フランク法)で新設されており、指名されたのは同氏が初めてです。
クオールズ氏は銀行への規制強化はコストの増加につながるとして規制には否定的であり、金融規制緩和を目指すトランプ政権と思惑が一致しています。
当初は金融危機の再発を未然に防ぐために金融機関への規制を強化し、その監督を目的としたポストでしたが、最初の就任が規制緩和派となったことは皮肉としか言いようがありません。規制緩和へと政策転換が図られることになります。
また、同氏は政策金利を一定のルールに従って決定する“テイラー・ルール”を支持していることでも注目されています。
一方、イエレン議長は来年2月に任期が切れることから議会証言は今回(7月)が「最後かも」と発言しており、退任は現実味を帯びています。
次期FRB議長にはゲイリー・コーン国家経済会議委員長(NEC)の名前が挙がっていますが、状況はまだ流動的です。とはいえ、遅くとも年末までには後任を決める必要があり、通常であれば9月のFOMC前には後任が絞り込まれる見込みです。
懸念されているのは、次期総裁がどのような政策スタンスを取るのかに市場の関心が向うことです。たとえば、タカ派の総裁が見込まれるのであれば、実際には何もしなくても金利が上昇してしまう可能性があるということです。
執行部の交代はそれ自体が市場に影響を与える恐れがあり、留意が必要となるかもしれません。
LIMO編集部