ロシア疑惑は6月8日のコミー米連邦捜査局(FBI)前長官の議会証言で当面の材料が出尽くしとなり、その後はやや関心が薄れていました。

しかし、トランプ大統領の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏がロシア人弁護士と面会した問題を巡り、7月11日に電子メールを公表したことをきっかに再び騒がしくなっています。そこで今回は、ロシア疑惑の最新事情を整理してみました。

いよいよ本丸? トランプファミリーの商取引を調査へ

今週は24日にトランプ大統領の娘婿、ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問が上院情報特別委員会で証言。続いて26日にはトランプ・ジュニア氏が、昨年の大統領選挙で一時選挙対策本部長を務めていたポール・マナフォート氏とともに上院司法委員会で証言する予定となっています。

トランプ・ジュニア氏は昨年6月、「民主党のヒラリー・クリントン候補の不利になる情報の提供」を約束したロシアの弁護士ナタリア・ベセル二ツカヤ氏と面会しましたが、実際には「養子縁組」の話が中心で、期待していた情報の提供はなかったとされています。この面談にはクシュナー氏とマナフォート氏も同席していました。

ただ、面会を仲介したのが、トランプ大統領のビジネスパートナーであったロシアの“不動産王”アラス・アガラロフ氏であったことが判明し、事態が複雑になっています。モラー特別検察官は、昨年の大統領選挙でのロシアとトランプ陣営とのつながりを捜査していますが、ここへきてトランプ一族のビジネスへと捜査を拡大しているからです。

具体的には以下の4つが挙げられています。

  1. トランプ氏の高層マンションをロシア人に売却した取引
  2. ロシア関係者と共同開発したホテル「トランプ・ソーホー」へのトランプ氏の関与
  3. モスクワで2013年に開催された「ミス・ユニバース」
  4. トランプ氏が2008年にフロリダ州の豪邸をロシアの富豪に売却した件 

トランプ氏とともに「ミス・ユニバース」の共同開催者だったのがアガラロフ氏であり、同氏はロシアのプーチン大統領やロシア政府と深いつながりがあるとされています。

トランプ・ジュニア氏のメールはトランプ一族のビジネスへと捜査を拡大させる口実を与えてしまったようで、事態が急展開する可能性が高まっています。

疑惑は大統領選挙から資金洗浄へ?

ロシア疑惑はロシアとトランプ陣営の“共謀”をメインテーマとしつつも、マネーロンダリング(資金洗浄)もしくは脱税を視野にトランプ一族のビジネスへと捜査の軸足が移った模様です。

たとえば、「トランプ・ソーホー」と「フロリダ州の豪邸売却」は大統領選挙との直接的な関係は伺えず、焦点がマネーロンダリングにあることを匂わせています。

まず、トランプ・ソーホーは、トランプ一族が経営するトランプオーガニゼーションとロシア系アメリカ人が経営する不動産会社ベイロックが共同で建設していますが、このベイロックはアイスランドの投資会社を利用してロシアのマネーロンダリングをほう助した疑いが持たれています。

次に、フロリダの豪邸を購入したのはロシアの“肥料王”ドミトリー・リボロフレフ氏とされており、トランプ氏が4100万ドルで購入した豪邸を9500万ドルで購入しています。評価額は6000万ドル以下とされおり、また実際に利用されている形跡もないことから、単なる資金援助が目的だったのではないかと疑われています。

ただし、疑惑はそこで終わりません。リボロフレフ氏はキプロス最大手のキプロス銀行の大株主であり、キプロスを舞台にしたロシアのマネーロンダリング疑惑が広く知られているからです。

また、今年初めドイツ銀行はロシアのマネーロンダリングをほう助した疑いで4億2500万ドルをニューヨーク州に支払うことに応じているほか、米連邦準備制度理事会(FRB)に対しても4100万ドルの制裁金を支払うことで合意しています。

一方、トランプ大統領の個人的な負債は少なくとも3億1560万ドルで、そのうち少なくとも1億3000万ドルがドイツ銀行からの融資となっています。ただし、これはトランプ大統領本人の個人的な負債であり、経営する企業がどの程度の融資を受けているのかは不明です。

米議会はドイツ銀行に対し、繰り返しトランプ一族の情報を開示するよう求めていますが、ドイツ銀行は拒否しています。加えて、前出のマナフォート氏はウクライナの親ロシア派からキプロス経由で資金提供を受けていたことが発覚しています。

フロリダの豪邸売却そのものはマネーロンダリングと直接関係はなさそうですが、トランプ大統領とリボロフレフ氏、マナフォート氏、ドイツ銀行をキプロス経由のマネーロンダリングで捜査する突破口として利用することはできそうです。

万策尽きて自分に恩赦?

トランプ大統領は、本人やその家族を捜査の対象から外すための恩赦を検討中とされており、かなり焦っている様子が伺えますので、問題の核心に迫るのにはそれほど時間がかからないのかもしれません。

ちなみに、大統領は家族への恩赦は可能ですが、本人には無理そうです。ただし、たとえばトランプ大統領が辞任し、副大統領のペンス氏が大統領に昇格した場合、ペンス新大統領がトランプ氏に恩赦を与えることはできます。

トランプ大統領は歴代の大統領の慣行を破って納税申告書の公表を拒否していますが、モラー氏は納税申告書も調べる意向とされています。

納税申告書を調べることで、トランプ大統領がロシアを含むどの国とビジネスを展開していたかが明らかになる可能性があります。加えて、トランプファミリーの情報公開を拒否しているドイツ銀行が捜査に協力すれば、一段と真相に迫れることでしょう。

トランプ大統領は今年3月、ドイツ銀行の資金洗浄を捜査していたマンハッタン連邦地検のトップを罷免しており、モラー氏はこの解任にも興味を示している模様です。

モラー氏の検察チームには企業の不正行為や国外の贈収賄を専門とするアンドリュー・ワイスマン氏が加わっており、トランプ一族のビジネスに不正行為がなかったのかどうかを本確的に調査していることが伺えます。

ワイスマン氏はモラー氏がFBI長官時代にエンロンの不正取引を調査しているほか、最近ではドイツのフォルクスワーゲンの排ガス不正問題や、ブラジルの石油公社ペトロブラスを巡る汚職疑惑の捜査を担当しています。

“ウォーターゲート事件”では副大統領から昇格したフォード大統領が、辞任したニクソン大統領に恩赦を出しています。同じ結末を迎えるのかどうかが注目されます。

LIMO編集部