FX取引の大きな特長は、担保として差し入れた証拠金(保証金)の何倍もの金額の取引ができることです。これをレバレッジと言います。レバレッジ(leverage)は英語で「てこ(の力)」という意味です。「FXは少ない資金で大きな取引ができる」のもレバレッジのおかげです。一方で、「FXはリスクが大きい」と言われるのもレバレッジがあるからです。ただし、レバレッジの仕組みをしっかりと理解しておけば、チャンスを生かし、リスクをコントロールすることもできます。ぜひ以下のまとめを読み、参考にしてみてください。
目次
1 まずは「証拠金(保証金)取引」とは何かを理解しましょう
2 「レバレッジ25倍」とはどういう意味?
3 レバレッジはチャンスでもあり、リスクでもある
4 レバレッジ25倍よりもレバレッジ100倍のほうが儲かる?
5 FX会社によってレバレッジは違うの?
6 できれば遭遇したくない、「ロスカット」って何?
7 FX会社によって異なるロスカットのルールやアラート
8 ロスカット水準は「証拠金維持率20%以下」が有利とは限らない
9 ロスカット制度があっても、証拠金以上の損失が発生することも
10 ロスカットを防ぐために、資金に余裕を持たせておく
11 レバレッジを考慮して、リスクをコントロールしましょう
12 まとめ
1 まずは「証拠金(保証金)取引」とは何かを理解しましょう
FXは「外国為替証拠金(保証金)取引」とも呼ばれます。「証拠金(保証金)」とは何でしょうか。
そのためにはまず、FXがCFD(差金決済取引)取引の一種であることを理解しておきましょう。差金決済とは、現物の受渡しをせずに反対売買による差額の授受で決済を行う取引です。英語で「Contract For Difference」と言い、その頭文字を取って「CFD」と呼びます。
株式の現物取引では、ある銘柄を売買する際には必ず有価証券の受け渡しを行わなければなりません。同一銘柄を1日のうちに「買い付けて売却する」ことはできますが、「買い付けて売却し、さらに買い付ける」ことはできません。「買い付けて売却し、さらに買い付ける」には、現在の価格の2倍の資金が必要です。
一方でFX取引は差金決済取引で、現物の受渡しをしません。反対売買による差額の分だけを授受して決済を行います。つまり、1万米ドルを購入するために、1万ドル分の資金は必要ありません。差額の部分さえ払う余力があるなら、いくらでも大きな取引ができます。
「どれだけの証拠金を用意すればFX取引ができるか」は、FX会社によって異なります。日本では必要な証拠金の額は、取引しようとする金額の4%以上と法律で決まっています(個人向けの場合)。つまり、1ドル=100円の場合、通常の取引であれば1万ドルを購入するには100万円が必要ですが、FXならその4%(4万円)の証拠金を預け入れれば取引ができます。
2 「レバレッジ25倍」とはどういう意味?
FX取引を行うためには、取引しようとする金額の最小4%の証拠金を預け入れるだけで取引ができます。つまり、25分の1の資金があれば、取引ができるわけです。見方を変えれば「預け入れた証拠金に対して25倍の取引ができる」ということになります。
このように、証拠金取引では、少ない証拠金で大きな金額の取引ができることから、「レバレッジ効果がある」「レバレッジが効く」などと表現します。レバレッジ(leverage)は英語で「てこ(の力)」という意味です。また、必要とされる証拠金が4%(25分の1)の場合、「レバレッジは25倍」と言うこともあります。
日本のFX取引会社では、レバレッジは25倍以下(証拠金は4%以上)と法律で定められています。海外のFX会社などでは、このような規制がないところがほとんどで、400倍~1,000倍のレバレッジで取引ができるところもあります。
日本の取引会社ではFX取引以外にも、日経225などの株価指数、原油や貴金属などの商品などで証拠金取引ができます。レバレッジは商品や銘柄ごとに異なり、5~20倍となっています。
3 レバレッジはチャンスでもあり、リスクでもある
証拠金取引のレバレッジはチャンスでもあり、リスクでもあります。通常、1米ドル=100円の場合、1万ドルを購入(両替)するためには、100万円の資金が必要ですが、FX取引ではその4%(約4万円)の証拠金を預け入れるだけで取引ができます(手数料などを除く、以下同)。
ドルを購入後、1ドル=101円に値上がりしたとすると利益はいくらになるでしょうか。1万ドルの取引をしているので、1万円の利益を得たことになります。100万円の資金で1万円の利益を得た場合、収益率は約1%です。ところが、証拠金取引では資金は約4万円しか預け入れていません。このため、収益率は約25%にもなります。
為替相場では1日で米ドルが1円以上動くこともあります。1年間で25%もの利益が得られる金融商品はほとんどありませんが、FXならそれがわずか1日で得られることもあるのです。ただし、逆に1万ドルを購入してから1円値下がりすると、1万円の損失になります。証拠金が4万円だった場合、約25%もの損失ということになります。「FXはハイリスク・ハイリターン」と呼ばれるのはここに理由があります。
4 レバレッジ25倍よりもレバレッジ100倍のほうが儲かる?
現在、日本ではFX取引のレバレッジが法律で規制されています。上限は25倍です。2009年8月、「金融商品取引業等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」により規制が始まりました。それまで、FX取引のレバレッジには規制はありませんでした。日本のFX会社でも、レバレッジ500倍もの取引サービスを提供しているところもありました。投機性が高いとされ、規制はこれを抑えるのが目的です。個人投資家がFX取引を行う場合は、2010年8月より最大50倍、2011年8月より最大25倍に規制されることになりました(法人は規制の対象外)。
「レバレッジ規制が行われることでFX取引が儲からなくなった」と言う人がいます。そうでしょうか。確かに、レバレッジが小さくなると、同じ証拠金あたりでの利益の額は少なくなります。1米ドル=100円の場合、レバレッジが25倍であれば、約4万円の証拠金で1万ドルの取引ができます。米ドルを買っていて、予想が当たり、1円値上がりすると、4万円の証拠金で1万円(約25%)の利益を得られます。
一方、レバレッジが250倍だったとすると、約4万円の証拠金で10万ドルの取引ができます。1円値上がりすると、約10万円の利益が得られます(約250%)。その差は大きいですが、当然ながら、レバレッジが大きいと予想が外れた場合に大きな損失が発生する可能性があります。
FXの専業トレーダーとして生計を立てている人の中には、「レバレッジ1倍で勝てない人は、レバレッジ100倍でも勝てない」と語る人もいます。大切なのはコンスタントに勝ち続けることです。
5 FX会社によってレバレッジは違うの?
レバレッジ規制が行われるまでは、FX会社によってレバレッジはまちまちでした。また、同じFX会社でも、預かっている証拠金の額の大きさなどに応じて「10倍、50倍、100倍」などと、いくつかのレバレッジコースを設けているところもありました。
現在、日本国内のFX会社では、レバレッジは最大で25倍以内とされています(個人向けの場合)。このため、ほとんどのFX会社でレバレッジは25倍となっています。ただし、中には、「1倍、10倍、25倍」などと、いくつかのコースが用意されているところがあります。
また、投資家自身でレバレッジコースを選択できるところもあります。ただし、複数のレバレッジコースを利用することは、さほど意味がありません。というのも、投資するロット数を変えることで、レバレッジは自分で柔軟に変更できるからです。
1米ドル=100円のとき、1万ドル投資するのに必要な証拠金は4万円です(レバレッジ25倍の場合)。今、4万円の証拠金で1万通貨のポジション(注文して保有している状態)を持つと、まるまる投資していることになり、レバレッジは25倍となります。
ただし、4万円の証拠金で5,000通貨に投資すると、2万円しか投資していないので、レバレッジは12.5倍です。同様に、4万円の証拠金で1,000通貨に投資すると、必要な金額は4,000円なので、レバレッジは2.5倍です。つまり、預け入れた証拠金に対して少ししか投資しなければ、全体の資金に対するレバレッジを下げることができるのです。
6 できれば遭遇したくない、「ロスカット」って何?
ロスカットとは、ポジションを決済した場合の損失額がある一定レベルに達したときに、その対象ポジションを強制的に決済する制度です。ロスカットのルールも、かつてはFX会社によってまちまちでした。しかし、2009年に「金融商品取引業等に関する内閣府令」が改正され、FX会社にロスカット制度が義務づけられました。つまり、日本のFX会社であれば、必ず何らかのロスカット・ルールがあります。
ロスカットの目的は、相場の変動により投資家の損失が拡大することを防ぐことです。ロスカットを理解するために知っておくべきキーワードが「証拠金維持率」です。FX会社では「証拠金維持率が50%以下となった段階でロスカット」などのルールを決め、明示しています。
証拠金維持率とは、現在のポジションに必要な証拠金(取引証拠金)に対する資産額の割合のことです。証拠金維持率は以下の計算方法で求めます。
証拠金維持率(%)=有効証拠金額(資産合計+評価損益)÷取引証拠金×100
たとえば、4万円を証拠金として預け入れ(資産合計)、1米ドル=100円のときに、1万ドルの買いポジションを持つとします。本来はあまりやるべきではありませんが、証拠金をまるまる全部投資するとしましょう。その場合に必要な取引証拠金は4万円です。その後、価格が変動しない(損益がゼロ)場合では、証拠金維持率は
証拠金維持率(%)=(40,000+0)÷40,000×100
で、100%となります。
ここから1ドル=98円に、2円値下がりすると、評価損益は
評価損益=-2×10,000の
2万円の損失となります。
その場合の証拠金維持率は
証拠金維持率(%)=(40000-20000)÷40000×100
で、50%となります。
「証拠金維持率が50%以下となった段階でロスカット」というルールのFX会社であれば、この時点でロスカットになってしまいます。
7 FX会社によって異なるロスカットのルールやアラート
日本では、FX会社にロスカット制度が義務づけられています。ただし、ロスカットのルールやアラートの方法はFX会社によって異なります。
ロスカットの水準
ロスカットについて気をつけなければならないことの一つが、FX会社によってロスカットの水準が異なることです。しかも、証拠金維持率が20%以下~証拠金維持率が100%以下、とかなり幅があります。
アラートの有無
FX会社によっては、「証拠金維持率が100%を下回った場合」などに、「このままではロスカットになる恐れがある」などとメールなどでロスカットアラームを通知してくれる制度があります。
ただし、価格の変動により、証拠金維持率も変動します。このため、証拠金維持率が100%を下回った後にすぐ戻るといったことが繰り返される場合があります。この場合、何度でもアラートメールを送ってくるFX会社もあれば、アラート通知は1つの取引に対して1日1回だけといったところもあります。
ロスカットアラーム制度のないFX会社では、証拠金維持率50%を割った場合などに、予告なく強制的にロスカットが行われます。
追証の有無
FX会社によっては、証拠金維持率がある一定の割合を下回っても、特定の時間までに追加証拠金を入金したり、ポジションを決済したりすることで、証拠金維持率を戻すことができれば、引き続き取引ができるところがあります。追加の証拠金を追証(おいしょう)と言います。
たとえばあるFX会社では証拠金維持率が100%を割り込むと、追証発生を知らせるメールで通知します。追証が発生すると、当日の24時までに追証金額分を入金するか、証拠金維持率が100%以上になるまでポジションを決済する(減らす)必要があります。追証発生日の24時までに追証が解消されなかった場合は、すべてのポジションが強制決済されます。
追証が解消されなかった場合に強制決済される時刻は「当日の24時まで」のほか「翌日の午前3時まで」「翌日の午前6時まで」といったように、FX会社によって異なります。
8 ロスカット水準は「証拠金維持率20%以下」が有利とは限らない
FX会社によってロスカットの水準が異なる、しかも、証拠金維持率が20%以下~証拠金維持率が100%以下、とかなり幅があると紹介しました。
FX会社の中には、証拠金維持率が100%以下で強制ロスカットするところがあります。このような会社では、証拠金をまるまる使ってしまうと、とたんにロスカットになってしまいます。
たとえば、1米ドル=100円の場合、1万通貨を取引するのに必要な証拠金は4万円です(レバレッジ25倍の場合)。証拠金を4万円預け入れて、1万通貨のポジションを持ったとすると、レートが1銭でも下がるとその瞬間に強制ロスカットになってしまいます。
ただし、実際にはスプレッドがあるため、4万円の証拠金では1万通貨に投資できません。では、41,000円を証拠金として預け入れ、1万通貨(4万円分)投資すればいいのでしょうか。それでも100%ぎりぎりだと、約10銭下がると強制ロスカットになります。
FX会社の中には証拠金維持率が20%以下で強制ロスカットになるところがあります。このようなところでは、4万円の証拠金が1万円まで減っても、まだ強制ロスカットになりません。
では、「証拠金維持率が20%以下で強制ロスカット」になるFX会社と、「証拠金維持率が100%以下で強制ロスカット」になるFX会社とではどちらが有利でしょうか。一見、前者のほうが有利なように感じるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。100%以下でロスカットされていれば、損失が限定できたものが、20%以下となると、損失が大きく広がることもあるからです。
9 ロスカット制度があっても、証拠金以上の損失が発生することも
「ロスカットに引っかかってしまった」などとネガティブなイメージでとらえがちですが、ロスカット・ルールがあることによって、原則として、預け入れた証拠金は最低限の額が残ります。
「原則として」と書いたのは、相場があまりにも急激に予想と反対方向へ進んだ場合は、証拠金以上の損失が発生する可能性があるからです。
2015年1月15日、スイスの中央銀行であるSNB(スイス国立銀行)は突然、2011年9月から維持してきた、スイスフランに対するユーロの下限を1.2とし無制限介入を行うという方針を撤廃することを発表しました。これを受けて、ユーロは対スイスフランで急落し、約20分間で41%も下落しました。いわゆる「スイスフランショック」です。
インターバンク市場では価格の折り合いが付かず、レートが飛ぶ、「値飛び」という現象が起きました。ロスカット・ルールがあったにもかかわらず、そのポイントを越えて約定してしまったため、想定していた以上(証拠金以上)の損をした投資家が数多く出ました。取引口座の資産がマイナスになり不足額を追証として預け入れなければならなくなりました。
「スイスフランショック」のような事件はめったに起きませんが、土日の休日をはさんだ月曜日の始値が、週末の終値と大きく乖離することがあります。その場合、取引開始時にロスカットになってしまうこともあるので注意が必要です。
10 ロスカットを防ぐために、資金に余裕を持たせておく
ロスカットを防ぐためには、証拠金維持率を高くすることが必要です。そのためには、預け入れる証拠金の額を増やすか、ポジションを減らします。つまり、資金に余裕を持たせることが大切です。
そのめどとして、自分の投資スタイルとして証拠金維持率をいくらにするのか、あらかじめ決めておくといいでしょう。と言っても証拠金維持率110%では、レートが大きく変動したときにロスカットになる可能性があります。
米ドルの場合、1日に3円も動くことはほとんどありません。1万通貨の場合、3円の損失を受けてもまだロスカットにならないためには、4万円+3万円=7万円を証拠金として預け入れればいいことになります。この場合、ポジションを持ったとき(エントリーしたとき)の証拠金維持率は、約175%になります。
ロスカット・ルールに加えて、逆指値注文(損切り)を入れておけば、さらに安心です。あといくらレートが変動するとロスカットになるか、エクセルなどを使って計算できるようにしておくといいでしょう。FX会社によっては、サイト内に計算できるツールを用意しているところがあります。もちろん、逆指値注文(損切り)は、このロスカットラインよりも上(手前)に置くようにします。
11 レバレッジを考慮して、リスクをコントロールしましょう
前述したように「FXはハイリスク・ハイリターン」と呼ばれるのは、FXにはレバレッジがあるためです。株式の場合、ある銘柄の価格が1日で2倍になったり2分の1になったりすることもあります(ストップ高・ストップ安の範囲内で)。期間を数か月まで広げれば、数倍になる銘柄もないわけではありません。
一方でFXの場合は、米ドルがよく動いたとしても1日1円程度(1%未満)です。数か月たっても2倍になったり2分の1になったりすることもありません。それなのになぜ「ハイリスク・ハイリターン」になるかと言えば、FXではレバレッジを生かして、その値動きの数十倍のリターンを得られる可能性があるからです。
見方を変えれば、リスクを抑えるためには、レバレッジを低くすればいいのです。4%の証拠金を預け入れなければならないところを8%の証拠金を預け入れれば、レバレッジは半分の12.5倍になります。
1米ドル=100円の場合、1万通貨の取引をするのに必要な証拠金は4万円(レバレッジ25倍の場合)ですが、これを40万円預け入れれば、レバレッジはその10分の1の2.5倍になります。100万円預け入れれば、レバレッジは1倍です。
1万通貨のポジションを持ち、1円動くと、1円の利益(または損失)になります。レバレッジ25倍なら、収益率は25%(または-25%)ですが、レバレッジ1倍なら収益率は1%(または-1%)です。これなら、資金全体へのインパクトも小さいでしょう。
「100万円も資金がない」という人は、ポジションを小さくする方法があります。4万円の証拠金で1万通貨のポジションを持つと、レバレッジは25倍ですが、1,000通貨なら2.5倍です。FX会社によっては1通貨から取引ができるところもあります。少ない資金でもレバレッジを1倍にすることもできます。
12 まとめ
FX取引の特色の一つはレバレッジです。ただし、前述したように「レバレッジ1倍で勝てない人は、レバレッジ100倍でも勝てない」と語るトレーダーもいます。何度もロスカットになったり追証になったりして勝てないという人は、トレードの手法やリスク管理の方法を見直す必要があるでしょう。
レバレッジ規制が行われたとき、「25倍などのレバレッジでは投資家は離れる」とも言われました。実際にはそんなことはなく、FX市場はその後も拡大しています。
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上山 光一