ソニーが8月に有機ELテレビの最上位機種発売
2017年7月11日、ソニー(6758)は、8月から77型の有機ELテレビ(A1シリーズ)を発売するとアナウンスしました。
同社は今年1月に米ラスベガスで開催されたCES※で、一度は撤退した有機テレビに10年ぶりに再参入する方針を示し、既に6月から55型と65型を発売していましたが、これで予定されていた全てのサイズが出揃うことになります。
※ Consumer Electronics Show:米国ラスベガスで開催される家電中心の展示会
今回ソニーが発表した77型の「KJ-77A1」の発売予想価格は、250万円前後とかなり高額に設定されています。現時点で発売済の77型はLGエレクトロニクス(OLED77W7P)だけですが、ヨドバシ.comによると価格は269万7,840円となっており、どちらも77型は、かなりハイエンドのプレミアム製品ということになります。
ここで改めて、なぜソニーが再び有機ELテレビに取り組むのかをおさらいしたいと思います。投信1の記事『ソニーの有機ELテレビは10年前と大きく変わったか?』でも述べたように、その目的は「ソニー=ハイエンド」というブランドイメージを形成するためです。
そのためにソニーは、高画質化技術であるHDR(ハイダイナミックレンジ)やデザイン、音質などで付加価値を訴求していく考えです。
有機ELはまだ“高嶺の花”
では、実際に有機ELテレビの価格がどのようになっているか、発売済の65型を例に見てみましょう。
65型有機ELテレビの価格比較(ヨドバシ.comより、7月12日調べ、税込、ポイント10%還元)
- ソニー(KJ-65A1):863,670円
- パナソニック(TH-65EZ950):698,000円
- 東芝(65X910):698,390円
- LGエレクトロニクス(OLED65C7P):488,900円
まず、気が付くことは、有機ELテレビの価格は液晶と比べてまだかなり割高であるということです。ちなみに、液晶であれば、65型は30万円前後、売れ筋の45~49型で10万円前後です。
また、各社ともLGエレクトロニクスから調達した同じ有機ELパネルを使いながら、価格に大きなばらつきがあることにも気づかされます。ここからも各社がパネル以外で付加価値を訴求し、差別化を図ろうとしていることが読みとれます。
液晶テレビの失敗を繰り返さない
では、今後、有機ELテレビの価格は、かつての液晶テレビのように急速に低下していくのでしょうか。
メーカーは継続的にコストダウン活動を行っているため、その可能性は全くないわけではありませんが、おそらく当面は穏やかな値下がりに留まる可能性が高いのではないか、というのが筆者の見立てです。
その理由は2つあります。
第1は、ソニー以外のパナソニック(6752)や東芝(6502)も、液晶テレビでの苦い体験がいまだに残っているため、当面は価格ではなく、デザイン、画像処理、音響技術、ネット対応など、価格以外の切り口で競争が繰り広げられる可能性が高いと考えられるためです。
第2は、有機ELテレビ市場には、少なくとも今年中に新たな参入者が現れる可能性がほぼないためです。
今年6月からヤマダ電機(9831)と組んで国内テレビ市場に再参入を果たした船井電機(6839)は、今年は4K液晶テレビには注力するものの、有機ELについては2018年夏からとコメントしており、今年は参入しない考えを表明しています。
また、シャープ(6753)も、液晶を軸にしてテレビ事業を展開していく姿勢を示しており、有機ELテレビよりも、次世代高画質の8K液晶テレビの開発に注力する考えを示しています。
有機ELテレビを手掛ける本当の理由とは
有機ELテレビは、バックライトが不要で薄型化が可能な、自ら発光するデバイスであるため、黒色がほぼ完全な漆黒になります。その結果、色のコントラスト比が高いなどの強みがあるものの、一方で、現時点では価格や耐久性の面では液晶に軍配が上がります。
このため、有機ELテレビを今年から発売するソニーやパナソニックにおいても、テレビ事業の主力製品は液晶テレビとなっています。また、実際のところ、有機ELテレビを手掛ける理由は有機ELテレビを一気に普及させようというためでではないのです。
有機ELテレビというハイエンド製品を消費者に提示することで、液晶についても画質などの性能に目を向けてもらい、それにより4K液晶テレビの価値をさらに訴求しようというのが本来の狙いなのです。
このため、これから薄型テレビのご購入をご検討の方は、液晶、有機ELともにじっくりと各社の製品を比較検討されることをお勧めします。
きっと、そこからはテレビ各社の戦略が、かつてのように横並びではないことがくっきりと見えてくると思います。
LIMO編集部