ボーナスキャンペーンが活発になる時期だが...
いよいよボーナスシーズンの到来です。普段よりも多く振り込まれた預金残高を眺めながら、資産運用を始めようとお考えの方もいらっしゃるのではないかと思います。
とはいえ、何事も拙速は禁物です。金融機関も、この時期は「夏の投資信託・ボーナスキャンペーン」などのキャッチフレーズで積極的な宣伝を行いますが、必ずしもあなたにとってベストな金融商品をすすめてくれるとは限らないのです。
もし、資産運用にトライしようと思われるのであれば、まずは急がずにじっくりと情報を集めてから始められることをおすすめいたします。
金融庁が指摘する投信販売の”不都合な真実”
なぜ、そこまで金融機関からのアプローチに対して慎重にならなくてはいけないのでしょう。長期投資で資産形成を目指す個人投資家にとって、あまり適切とはいえない営業や金融商品の販売が行われている可能性があるということなのでしょうか。
その答えの一端は、最近金融庁が作成した「積立NISAに関する関連資料」に示されています。たとえば、この資料の8ページには、「日米の規模の大きい公募投資信託のコストを比較すると、日本の投信は、米国のものに比べ、1本あたりの販売手数料、信託報酬ともに高い」と指摘されています。
販売手数料、信託報酬ともに、買い手である私たちが負担をしなければいけないコストですが、これが日本とアメリカで大きな差異があることがわかります。具体的には、販売手数料の平均(純資産額上位5商品)が日本では3.2%、アメリカでは0.59%、信託報酬は日本が1.53%、アメリカが0.28%と、かなりの開きがあります。
さらに目を引くのは、過去10年平均の収益率(年率)が日本は▲0.11%、アメリカは+5.2%となっていることです。高いコストを負担したにもかかわらず、それに見合ったパフォーマンスは享受できていないというわけです。このように、金融庁の資料には日本の金融商品販売の実態が包み隠さず記されています。
これでは「貯蓄から投資へ」が進まないことも当然のような気がしてしまいます。
来年1月から始まる「積立NISA」
この資料は、来年1月から始まる「積立NISA」を前にして、日本の投資信託の現状を示すために作られています。
ちなみに、積立NISAは20歳以上の成人が利用可能な投資のための税制優遇策であり、年間40万円までの範囲で20年間利用が可能な制度です。通常であれば投資による利益には20%の税金がかかりますが、この制度を使えばそれが免除されるのです。
すでに導入されているNISAの年間投資上限は120万円ですので、40万円というのはそれに比べるとやや小ぶりです。しかし、非課税期間が現行のNISAの4倍の20年なので、フルで使った場合の投資最大元本は800万円(40万円×20年)と、現行のNISAの600万円(120万円×5年)を上回ることになります。
国がこのような非課税期間の長い投資税制優遇制度を導入する理由は、国としても国民に長期投資を促し、かつ投資リターンを享受してもらい、「貯蓄から投資」への流れを作りたいと考えているからに他なりません。
ところが、現実には長期投資に見合った投資信託が十分に国民に提供されていないという問題意識が金融庁にはあるのです。その厳しい目は、販売現場に留まらず、投資信託を組成する投信会社にも向けられています。
資料の14ページには、既存の投資信託のうち積立NISAに適合したものは1%しかないこと、また15ページには、日本で規模の大きい投信の上位10本のうち積立NISAの対象となるものはゼロであること、一方で米国の投信上位10本については、うち8本がその対象となることが述べられています。
では、積立NISAに適合する投信とはどのようなものかというと、以下のような基準が求められています。
- 信託期間が無期限または20年以上であること
- 毎月分配型でないこと
- 一定の場合を除きデリバティブ取引による運用を行わないこと、さらに運用手法としてはインデックス型を基本としつつ、アクティブ型には投資家から継続的に選択、支持され、資金流入が継続していること
また、運用手法については次の3つが定められています。
- 設定以来、5年以上経過
- そのうち3分の2以上の期間で資金流入超となっている
- 50億円以上の純資産がある
さらに、手数料・信託報酬に関する要件は以下のようになっています。
- 手数料無料であること(ノーロード)、
- 信託報酬は、国内資産のみに投資するインデックス投信は0.50%(税抜)、海外資産を組み入れているインデックス投信は0.75%(税抜)、国内資産のみに投資するアクティブ運用投信は1.00%(税抜)、海外資産を組み入れているアクティブ運用投信は1.50%(税抜)
今後の注目点
上記の資料は、日本の投資信託の実態が「売り手本位」ではないかという懸念を示しています。このような金融庁の指摘に対して、今後、投信を組成する投信会社や投信を販売する証券会社や銀行がどのような対応を見せるのかが注目されます。
これでは利益が稼げないという金融機関からの反発も当然予想はされる一方で、積立NISAが始まる来年の1月までには半年程度の時間があるため、今後さらに長期投資に適した投信が増えていくことも期待されるでしょう。
いずれにせよ、ボーナスを手にしたからといって、金融機関が提示する金融商品をうのみにして投信を購入するのではなく、こうした変化を見据えながら慎重にご判断されることをおすすめしたいと思います。
LIMO編集部