この記事の読みどころ

サウジアラビア(以後サウジ)を中心とする国々がカタールに対し、国交断絶を発表しました。サウジとカタールは、対立の根はあるものの、比較的良好な経済的関係を保っていただけに、突然(?)の国交断絶には唐突感を受けます。

カタールといえばサッカーファンには忘れられない、「ドーハの悲劇」が思い出されますが、私も含め日本人にとって、中東地域の出来事は分かりにくいというのが正直な印象です。ただ、中東からは原油や天然ガスなどの輸入を通じて深い関係もあるだけに、対岸の火事と決め込むことも考えものです。そこで、今回の国交断絶の背景と市場への影響についてポイントをまとめました。

カタール:サウジが主導する中東の国々、カタールと国交断絶

サウジとアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプト、イエメン、モルディブ(インド洋の島国)は2017年6月、カタールとの国交断絶を発表しました。

カタールの外交団や国民は各国から期限内の国外退去を求められているほか、航空機の運航も中止されています。カタールの首都ドーハでは、突然の発表に市民が動揺する姿も報道され、商品買い占めや、銀行から預金を引き出すなどの対応が行われている模様です。

どこに注目すべきか:国交断絶、イスラム原理主義、イラン

サウジを中心とする主に中東の国々とカタールの間には政策を巡る対立はあるものの、経済、文化面での交流は保たれてきただけに、国交断絶に唐突感はあります。そこで株式市場の反応を見ると、国交断絶の公表を受け、カタール株式市場は大幅に下落しました。一方、他の中東の国々の株式市場の動きは相対的に落ち着きが見られます。

まず、そもそもサウジを中心とする国々とカタールが対立する要因を振り返ります。

1つ目の要因は、中東地域の政策についての意見の衝突です。

カタールはハマス(パレスチナ自治区を実効支配)やエジプトのムスリム同胞団(イスラム原理主義組織ハマスの設立に関与)などを支援してきた面があります。また、シリアなどの過激派組織との関係も一部で維持しているとも言われています。カタールがこれらの勢力に対する影響力、関係を維持することに対し、サウジなどは方針の変更を求めてきました。

2つ目は2016年年初に国交断絶したサウジとイランの対立姿勢が遠因となっている点です。

ここでカタールの地図上の位置を確認すると、カタールはサウジとイランの2つの大国にはさまれた位置にあります。国としての規模は小さいものの、液化天然ガスの世界最大の輸出国です。外交ではイラン寄りの姿勢が見られます。

一方、2016年年初にイランと国交を断絶したサウジは友好国にイラン包囲網を呼びかけています。イラン寄りのカタールは、包囲網を作るのではなく外交を通じたイランとの問題解決を支持しています。

なお、国交断絶公表の後に行われた、サウジのジュベイル外相へのインタビューで、カタールが中東主要国との国交を回復するための必要条件について、イスラム原理主義組織ハマスとイスラム組織「ムスリム同胞団」への支援を停止する必要があると述べたことからも、対立の背景はこの点にありそうです。

次に、突然とも思えた国交断絶のきっかけ(短期要因)に注目しましょう。

1つ目は先月、カタールのタミム・ビン・ハマド・アール・サーニ首長がイランやハマスを支持する旨の発言をしたと国営通信が報じたことが関係悪化の原因と見られます。もっとも、カタール政府はこれはハッキングされた情報だとしてテロ支援を否定していますが、理解には至っていないのかもしれません。

2つ目は、先月、トランプ大統領が最初の外遊地としてサウジを訪問し協調姿勢を示したことも、サウジやその同盟国とカタールとの関係に影響を及ぼした可能性が考えられます。

最後に、市場の反応を振り返ります。

中東の株式市場の反応を見ると国交断絶されたカタールは大幅に下落していますが、他の国は比較的落ち着いています。これは2016年年初のサウジとイランの国交断絶の時と反応が異なります。当時は中東の株式市場全体が下落しましたので、今回は市場への直接的な影響は小規模なローカル市場にとどまることも想定されます。

一方、日本などへの影響も懸念される原油については少々異なります。一般に中東で緊張が高まると原油価格は上昇という公式が想定されますが、今回は当てはまらない展開で、むしろ下落しました。現在の原油価格は中東の国々など産油国間の減産合意で価格が維持されてきた面もありますが、合意維持に不透明感が出たことで、むしろ価格は小幅に下がるという展開でした。

ただ、今後の原油価格は、政治的緊張が高まれば上昇の可能性も考えられるだけに、政治動向によっては、原油価格の変動が高まる可能性に注意が必要かもしれません。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文