安倍首相が「一帯一路」構想に協力姿勢を示す

2017年6月5日、安倍晋三首相は現代版シルクロード構想ともいわれる中国の経済政策である「一帯一路」構想に関して、調達の公正さなどが担保されることを条件に協力していくとコメントしました。

これまで安倍首相は一帯一路構想に対して慎重なスタンスをとっていましたが、条件付きとはいえ、その姿勢が大きく転換したことになります。

株式投資には「国策に売りなし」という有名な投資格言がありますが、こうした安倍首相の発言はまさに国策を表したものであり、また、この格言に従うならば、これまであまり関心が払われていなかったものの、この投資テーマに関して考えることには大きな意味がありそうです。

もちろん、日本の一部には中国アレルギーがあることは確かです。このため、中国に関連するこのテーマに大きな関心が集まるのか、また、これまで無関心であった日本企業がどこまで積極的に商機を見出そうとするかは現時点では不透明です。

とはいえ、「人の行く裏に道あり花の山」という投資格言もあります。つまり、まだ人気化していないからこそ注目に値するという考え方もあることは意識しておきたいものです。

そもそも、一帯一路構想とは?

では、この一帯一路構想がどのようなものかについて、簡単におさらいをしておきましょう。

この政策は、2013年に中国で習近平政権が誕生して以来、掲げられている経済政策です。「一帯」は中央アジア、ヨーロッパまで続く陸の経済圏を指し、「一路」は東南アジア、南アジア、中東、東アフリカ、ヨーロッパまでを結ぶ海の経済圏のことです。

地球儀で見れば明らかですが、この経済圏は地理の時間に学んだ古代ローマと中国を結ぶシルクロードとも重なります。このため、一帯一路構想は「現代版シルクロード構想」とも呼ばれています。

また、これら地域の約70カ国の道路、港湾、発電、鉄道、水道、空港など様々なインフラ投資を行うことで経済発展を促そうとするこの政策が、かつてアメリカが第2次大戦後に欧州で行った経済支援政策に類似しているため、「中国版マーシャルプラン」とも呼ばれています。

いずれにせよ、一帯一路構想は、まずはインフラ投資に関連した企業にビジネスチャンスを与えるとともに、インフラ投資の結果、これら地域の経済圏が発展していけば、そこで消費される製品やサービスを提供する企業にも商機をもたらすことになると考えられます。

なぜ、日本政府は協力姿勢に転換したのか

上述のように、これまで日本政府は一帯一路構想には関心を示さず、また、この構想の資金の出し手としての役割が期待されているアジアインフラ投資銀行(AIIB)にも距離を置いてきました。

そのスタンスが、ここにきて180度変わろうとしていますが、その背景には、トランプ政権誕生後のアメリカの変化が大きく影響していると考えられます。具体的には、環太平洋経済連携協定(TPP)が頓挫しそうになっていることや、アメリカが保護主義に向かう可能性があることなどです。

こうした変化のなかで、貿易立国としての日本が存在し続けるためには、たとえ推進国が中国であっても一帯一路構想を無視できなくなっているというのが、安倍首相の今回の心変わりの背景にあると考えられます。また、朝鮮問題で米中関係が改善していることも一因である可能性も考えられます。

中国としても、これだけの大規模な政策を進めていくためには、日本の協力が重要と考えているようです。実際、安倍首相が協力姿勢を示す発言をした直後に、中国はこれを歓迎するコメントを発表しています。

このため、「条件交渉」は今後も続くとしても、今後、日本が一帯一路構想に関与していく可能性は急速に高まってきたと考えられます。

ずばり、一帯一路関連銘柄はこれだ

関連銘柄を考える前に、現状の日本企業の一帯一路構想に対するスタンスを確認しておきたいと思います。

2017年5月27日に報じられたロイターの日本企業に対するアンケート調査によると、プロジェクトへ参加している企業はなく、参加を希望する企業は5%という結果が出ています。

この調査は安倍首相のコメントが発表される以前に行われていたため、こうした結果に大きなサプライズはありませんが、日本企業はやはり「国策」に影響されやすいことも読み取れます。このため、国策が変化すれば、それによって企業の取り組み方も今後大きく変わっていくことが見込まれることになります。

では、最後に、このテーマで注目可能な関連銘柄について考えてみましょう。

以前、投信1の記事『質の高いインフラ投資は相場の救世主になるか?』で述べたように、日本政府は「質の高いインフラ投資」というキーワードで、海外での社会インフラ関連事業を拡大させるための政策に取り組んでいます。よって、今回もおそらく、そこで注目された以下のような企業が中心になると考えられます。

  • ゼネコン:大成建設(1801)、大林組(1802)
  • 建機:コマツ(6301)、日立建機(6305)
  • 電機・総合重機:日立製作所(6501)、三菱重工(7011)、IHI(7013)
  • プラント:日揮(1963)、千代田化工建設(6366)
  • 総合商社:伊藤忠商事(8001)、三井物産(8031)
  • 海運:商船三井(9104)

先行している企業は1社もないため、これから各社が一斉にスタートを切ることになります。こうした急激な「国策の変化」に各社がどのような対応を示していくかが注目されます。

和泉 美治