投信1編集部によるこの記事の注目点
- 2016年、海外の産業用ロボット関連で最大のニュースといえば、中国の大手家電メーカー美的集団(ミデアグループ)による独KUKAの買収です。
- KUKAはABB(スイス)、ファナック、安川電機とともに産業用ロボットの4強といわれ、中国に世界トップクラスの産業用ロボット企業が生まれたことになる。
- トランプ米大統領は、ニューヨークタイムズ紙のインタビューで、アップルのティム・クックCEOに電話で「米国にアップルの生産工場を建設してほしい」という意向を伝え、クックCEOから同意を得たと述べている。
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ロボット市場の2016年の動向や17年の見通しを考察する連載の第2回。今回は海外の産業用ロボット企業を取り上げる。
2016年、海外の産業用ロボット関連で最大のニュースといえば、中国の大手家電メーカー美的集団(ミデアグループ)による独KUKAの買収だろう。買収までの流れを振り返ると、まず16年5月末に美的集団が買収提案を行い、同年8月上旬までにKUKAの株式の81.04%を新たに取得。買収提案前から保有していた13.51%と合わせ、KUKAの株式94.55%を手中に収めた。取得額は50億ドル前後とみられる。KUKAはABB(スイス)、ファナック、安川電機とともに産業用ロボットの4強といわれ、中国に世界トップクラスの産業用ロボット企業が生まれたことになる。
その中国は現在、世界最大の産業用ロボット購入国となっており、産業用ロボットの保有台数は15年の約40万台から、20年に80万台、25年には180万台になると見込まれている。世界の産業用ロボット市場における中国市場の比率は15年の3割弱から20年には約5割に拡大する見通しで、その存在感は今後ますます大きくなる。
その中国市場では現在、日本をはじめとした海外メーカーのロボットが高いシェアを持つ。その状況を重く見た中国政府は産業用ロボットの国産比率を20年に50%、25年に70%まで引き上げる目標を掲げており、広東省では17年までにロボット産業を14年比約2倍の600億元(約1兆円)規模に育成する方針を掲げている。深セン市は14~20年に毎年5億元(約84億円)を投じてロボット関連企業を支援している。
中国の現地メーカーも瀋陽新松、広州数控、安徽埃夫特、南京埃斯頓といった企業の存在感が増しており、広州数控は多関節ロボットの生産体制を17年に年産1万台、20年に同3万台にする計画を出すなど増強も進めている。海外メーカーもABBが既存の上海拠点に続き、珠海市に15年に「ABB機器人(珠海)有限公司」を設立し、17年には製造拠点を稼働させるとみられる。
中国現地メーカーの製品の品質も年々向上しており、「単純なピッキングロボットなどであれば遜色ないレベルにある」(ロボットメーカー関係者)。システムインテグレーターの数も増えつつあり、多数のロボットの導入を進めている鴻海精密工業からスピンアウトして、システムインテグレーション企業を設立した技術者なども出てきた。
中国と同様、17年に注目される市場が米国。ドナルド・トランプ次期大統領は米国国内に製造拠点を設置する企業に対して減税などを行う方針を示しており、17年は米国国内での投資増加に伴うロボット需要の増加にも期待が高まっている。ちなみにトランプ氏は、ニューヨークタイムズ紙のインタビューで、アップルのティム・クックCEOに電話で「米国にアップルの生産工場を建設してほしい」という意向を伝え、クックCEOから同意を得たと述べている。また、労働者がロボットで置き換えられる懸念には「ロボットも米国で製造すればいい」とも答えている。
米国国内の産業用ロボットメーカーは少なく、オムロンが15年10月に買収したアデプト テクノロジー(現オムロンアデプトテクノロジーズ)、08年設立の協働ロボットメーカーのリシンク・ロボティクス、15年からABBがミシガン州の既存拠点内でロボットを生産している程度だ。アデプト社は16年4月に産業用ロボット49モデルを世界39カ国150拠点で一斉に発売するなどオムロンとのシナジー効果で事業展開を加速しており、オムロンは同社の持つオートメーション機器との相乗効果でロボット事業の規模を20年ごろに15年比4~5倍にすることを目指している。
こうした状況から17年は中国と米国が中心になりそうだが、チャイナプラスワンとして工場の進出が目立った東南アジアでも人件費が上昇し、ロボットの引き合いが増加している。欧州でも自動車関連の投資が回復しつつあり、さらにスポーツ用品メーカーのアディダスが17年にロボットで生産するシューズ工場をドイツに整備する計画を進めるなど、海外製造業でロボットの重要度がより高まる期間となりそうだ。
電子デバイス産業新聞 記者 浮島哲志
投信1からのコメント
産業用ロボットの国産化に注力する中国と、製造そのものを国内にとり戻したい米国。これまで製造もそれに必要な産業用ロボットも競争優位にあった日本はどうするのか、どうしたいのかという意思決定も含め、企業レベルではなく国レベルの判断が必要な状況です。競争力のある自動車、工作機械というアプリケーションを持ちながら、そのビジョンが見えないことがこの国の一番の危機だと言えるでしょう。
電子デバイス産業新聞×投信1編集部
電子デバイス産業新聞