本記事は5月19日付のHSBC投信株式会社によるレポートを転載したものです。
この記事の読みどころ
- テメル大統領に新たな汚職疑惑が浮上し、18日(木)のブラジル市場は株式・債券・通貨が大幅安。
- 当面、ブラジル市場は政治的不透明感の高まりから不安定な展開となる可能性。ただし、経済ファンダメンタルズは着実に改善しており、中長期的には引き続き有望な投資対象と見る。
テメル大統領に新たな汚職疑惑が浮上
5月18日(木)のブラジルの金融市場では、テメル大統領に不祥事隠ぺい疑惑が浮上する中、株式、債券、通貨のトリプル安となりました。同日のボベスパ指数は前日比-8.8%、4年物国債利回りは1.77%上昇、通貨レアルは対米ドルで-7.0%、対円で-6.5%となりました。
17日(水)夜、現地紙「オ・グロボ」は、テメル大統領が、クーニャ元下院議長への口止め料支払いを承認する会話内容を録音したテープを、食肉加工会社JBS幹部が最高裁判所に提出した、と報じました。現地紙では、クーニャ氏はテメル大統領が関与した疑いがある汚職スキャンダルに関する情報を握っていた可能性がある、と報じています。なお、クーニャ氏は今年3月にマネーロンダリングなどの罪で起訴されています。
ブラジルの政治不確実性が再び高まる
この報道を受けて、一部野党議員はテメル大統領の弾劾や辞任を要求しています。これに対し、同大統領は今回の疑惑を強く否定する声明を発表し、辞任する意志がないことを表明しました。クーニャ元下院議長もこの疑惑を否定しています。
今後、仮にテメル大統領が辞任あるいは弾劾に追い込まれた場合、現行憲法下では、下院議長が大統領代行となり、その後30日以内に国会議員による大統領の間接選挙が実施されます。大統領候補は被選挙権を持つ国民なら立候補が可能ですが、議員から候補者が出ると見られます。新たに選出される大統領の任期は現大統領と同じ2018年12月までとなります。
本来の国民の直接投票による次期大統領選挙は2018年10月に予定されており、2019年から新政権が発足します。2018年の大統領選挙を前倒しすべきとの声もありますが、そのためには憲法改正が必要となり上院・下院の承認を経ることになります。
一方、2014年の前回大統領選挙でのジルマ・ルセフ大統領、テメル副大統領の当選無効に係る訴訟も現在進行中であり、メンデス高等選挙裁判所(TSE)長官は6月6日に審理を再開するとしています。これもテメル大統領の解職に繋がり得る動きとして注目されます。
当社の見方~当面は不安定な動き、中長期的には引き続き有望な投資対象
ブラジルの金融市場は、政治的不透明感の高まり、また現在テメル政権が推進している社会保障改革の進捗がさらに遅れる可能性から、当面、不安定な動きになると考えます。
しかしながら、ブラジルでは、①景気の底打ち、②インフレ率の大幅低下、③大幅な利下げ余地、など経済ファンダメンタルズは着実に改善しています。また、ブラジルにとり財政改革とその重要な柱である社会保障制度改革は不可避であり、政情が安定化すれば、現在下院で審議されている社会保障制度改革案についても成立する可能性が高まります。当社では、中長期的にはブラジル市場が有望な投資対象との見方を変えていません。
株式市場については、当面の不安定な相場展開は、新たな投資機会を創出するとも見ており、有望銘柄に関しては組入比率を高めることを考えています。収益性とバリュエーションの両面で妙味のある銘柄に焦点を当てた投資を続ける方針です。