この記事の読みどころ

トランプ米大統領は4月21日、税制改革の具体策を4月26日に発表する方針を明らかにしました。大胆な税制改革を公表するという(いつもながらの?)宣伝文句もあったことから、市場では期待と不安のなか公表を待ちました。

トランプ政権が示した税制改革案に対し、市場ではドルが一時的ながら反発する局面も見られましたが、税制改革案の内容は選挙公約など従来の主張と同様で、また、財源などに具体性がないことから市場は具体策を待ち、模様眺めを続けることを強いられています。

トランプ政権:「米史上最大の減税」骨子を公表、個人所得税引き下げ等。財源は示さず。

ホワイトハウスは2017年4月26日、税制改革案の骨子を公表しました。コーン国家経済会議(NEC)委員長とムニューシン財務長官が公表した税制改革案には、法人税率から個人所得税まで幅広い項目が対象となっていますが、財源についての言及は不十分でした。

コーン委員長は会見で、米国の現在の税制が複雑化していることから、税制改革案では簡素化を目指すという方針も述べています。

どこに注目すべきか:税制改革案、CRFB、法人税、所得税

トランプ政権が「米史上最大の減税」と述べている「税制改革案」の内容を簡単に振り返り、トランプ政権の税制方針を再確認します。主な内容は記事末の図表1にまとめてあります。税制改革案発表後に米政府の財政政策をモニターする超党派のNPO法人「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」が公表した減税のコスト(図表1)も参考として加えています。

要点として、主に小規模法人減税のパススルー税も法人税関連とみなせば、法人税減税の規模は大きい印象で、法人や中間層、富裕層への配慮が見られます。

遺産税(日本のように相続人に課税する相続税と異なり、米国では遺産に課税という形で、納税手続きは遺産管理人が行います)の撤廃も富裕層に有利な印象です。一方で、基礎控除の増額では幅低所得者層に対する配慮が見られます。

コーン委員長が述べたように、簡素化を目指す方向は税制改革案に見られます。たとえば、手続きが複雑な代替ミニマム税(図表1の注)参照、複雑な税制なんだという理解で十分です)の廃止が盛り込まれています。また、所得税の税率を7段階から3段階に簡素化することも税制改革案に盛り込まれるなど、簡素化を目指す方向性は感じられます。

問題は、減税を行う財源が明確でないことです。米国も財政状況が健全ではなく、財政赤字を拡大できる状況ではないことから、減税するならどこかで財源を確保する必要があります。

しかし、税制改革案の中で財源になると見られるのは税控除の廃止で、これは州税や地方自治体税の納付額を連邦所得税の控除対象とするのを取りやめる(住宅ローン利子や慈善寄付金などは控除対象として残ります)内容です。

日本でも同じことですが、税控除の廃止・変更は政治的にきわめて難しい問題です。上記のように財源の不安が残る税制改革案ですが、税制改革案に必要なコストを見てみましょう。税制改革案公表後、先のCRFB(責任ある連邦予算委員会)は減税のコスト(必要な財源)の推定値を公表しています。

CRFBによるコスト推定は相当な幅を見る必要がある点に注意は必要ですが、2027年まで累計5.5兆ドルの財政負担の増加が懸念されます(図表1の合計、利払いコストは除いたベース)。

仮にこれだけの財政負担が増加すると、米国財政のさらなる悪化が想定されます。米国議会の中立的な行政機関である議会予算局(CBO)のベースシナリオ(予想)である連邦政府債務残高対GDP(国内総生産)比率は2027年で89%ですが、トランプ政権の提案する税制改革案のコストを上乗せすると、111%へと急激に悪化するとCRFBは見込んでいます。

税制改革案がこのまま議会を通過する可能性は低く、税制改革案の財源を明らかにする必要があると思われます。

ちなみに、過去米国で大型減税が実施されたときの公表文書は数百ページ程度となっています。具体的な財源、規模、適用範囲などを明確にするからです。

それに比べ、米史上最大の減税と呼んでいる今回の税制改革案は1ページに収まる箇条書きで公表されています。もっとも、何をするか予測不能なトランプ政権だけに、減税への期待は残っていますが、一方で市場への影響を評価するにはまだまだ材料不足です。

では、次に何を見るべきかですが、税制改革案を準備しているホワイトハウスの実務家(情報としては信頼度が高い)は減税と歳出を含めた予算全体の詳細を6月頃に公表したい模様です。恐らく、税制改革については当面小休止、市場が今回の税制改革案で踊る可能性は低いように思われます。

図表1:トランプ政権の減税案のコストのイメージ

出所:責任ある連邦予算委員会(CRFB)

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文