監査法人「意見不表明」で異例の決算発表
周知の通り東芝(6502)は、2度にわたり延期した2016年4-12月決算を2017年4月11日に発表しました。
これにより、3回目の延期は避けられたものの、決算短信には事業継続(ゴーイング・コンサーン)に「重要な疑義がある」との注記が付き、監査法人からは「意見不表明」という異例の発表でした。そのため混迷は一段と深まり、同社への信頼はさらに低下したという印象です。
4月11日に行われた会見で特に気になった会社側の発言は、「なぜ意見不表明でも決算を発表したのか」という質問に対する綱川社長の以下のコメントです(下線は筆者)。
今回また延期ということで、調査をしても、基本的に会計への影響、プレッシャーがあったかどうかということで「ない」ことの証明なわけです。佐藤(監査委員会委員長)のほうからご説明しましたように、60万件のメールをチェックし、いろいろ調査をしましたが、何も出てこない。こういった状況でまた延長しても同じ状態が続いて次も結果が出ないと、監査の意見表明が出ないということが考えられるので、これ以上、同じことを続けていても意味がないということになりましてこのたびの決断といたしました。
この説明で思い出されるのが、森友学園問題に関する、安倍首相の「寄付していないと証明することは困難であり、”悪魔の証明”である」という趣旨の答弁です。
ちなみに、悪魔の証明とは、「ある事象」を証明するのは「ある」ものを1つでも証明すればよいが、「ない事象」を証明するためにはあらゆる事象を前提に「ない」ことを証明しなければならないのだから、それは非常に困難であるという意味とされています。
東芝のケースで説明すれば、「上司のプレッシャーにより不正会計が行われた」ことが「ない」と証明するためには膨大な調査が必要で、それは非常に困難であるということになります。綱川社長は、会見では悪魔の証明という言葉を使いませんでしたが、上記の国会答弁を意識していたのではないでしょうか。
残る違和感
監査法人との意見の相違を埋めることが、悪魔の証明と同じように困難であることは理解できるものの、「同じことを続けていても意味がない」から監査法人からの「適正意見」というお墨付きを得ずに決算を発表した同社の姿勢には大きな違和感が残ります。
この記事『【粉飾・原発問題で重大な岐路に立つ東芝を大解剖】』にあるように、東芝は140年あまりの歴史を持ち、名門企業と言われてきました。その東芝にはもはや、かつての大手上場企業としての矜持はないのかと、とても気になります。
また、日本にある約3,500社の上場企業は、上場を維持するため監査に時間とお金をかけています。それなのに、東芝のような大企業が、”監査法人無用論”とも捉えられかねない行為を行うことがどのような悪影響を及ぼすかにも注意が必要であると考えます。
今後の注目点
東芝は一連の不正会計問題により、2015年9月から特設注意市場銘柄に指定されています。その1年半後の今年3月15日からは監理銘柄指定となっており、東証により上場維持か上場廃止かの審査を受けている最中です。
東証の判断基準は内部管理体制(子会社を含む)の改善が進展しているかどうかですが、上場企業に値するかを審査するのですから、当然そこには今回の「意見不表明」でも決算発表が行われた経緯も含まれると考えるのが自然です。
各種報道では東証の審査は長期化するという見方が多いですが、本決算も監査なしで行われる可能性が明らかになっている以上、早期の判断が望まれるところです。そこでもまた悪魔の証明は困難という姿勢が通用するのか、注視したいと思います。
和泉 美治